「森総理に就任祝い1千万円を…」 私立幼稚園連合会の「4億円消失」、元役員が証言

国内 社会 週刊新潮 2021年4月1日号掲載

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 全国の私立幼稚園が加盟する全日本私立幼稚園連合会で、4億円超の使途不明金が見つかった。連合会は不正な資金操作をしたとして前の会長と事務局長を刑事告訴したが、前会長は「私的流用はしていない」と強弁。ならば一体、巨額の金はどこへ消えたのか――。

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「警視庁のほうで粛々と捜査を進めていただくことになりました。告訴容疑は、業務上横領と私文書偽造ないし変造。三つめが、偽造有印私文書行使未遂」

 3月12日、全日本私立幼稚園連合会(東京都千代田区・以下、連合会)が開いた記者会見。連合会とその系列の全日本私立幼稚園PTA連合会(以下、PTA連)の代理人である大濱正裕弁護士は、不正な資金操作について刑事告訴に踏み切り、前日11日の夕方に警視庁に受理された事実を淡々と告げた。

 連合会の巨額使途不明金問題は3月6日にNHKが報じ、白日の下に晒された。その金額は2017年からの4年間でじつに4億円超。PTA連でも4千万円あまりの不正流用が見つかっている。

 大濱弁護士によると、告訴した相手は連合会の香川敬(けい)前会長と当時の事務局長。警察が捜査しないと全容は判明しないというのが告訴理由で、使途不明金の流れも判明していないとのこと。

 しかし、そつなく受け答えを続ける弁護士をよそに、集まった記者たちの視線は、会見に同席していたPTA連の方の会長、河村建夫元官房長官に注がれていた。

 4億円もの資金はどこに消えたのか。特定の国会議員ら政界へと渡っていたのではないのか――。

 一人の記者が切り出した。

「野党が、使途不明金が政界に流れた可能性を指摘している。その可能性はどうですか?」

 河村元官房長官の答えを約(つづ)めると次のようになる。

「私の政治団体について5年間さかのぼって調査した。(政治資金)収支報告書に記載すべき連合会からの寄付などは、一切なかった」

 一般的に表面化しにくいとされる、政治資金パーティー券の購入代金に充てられた可能性はないかと問われると、自身の事務所スタッフに「ええ、ない? 調べた?」と確認。スタッフは、「あの、調べて連絡します」と言うのみだった。

「つまりパー券購入の有無は調べていなかったのでしょう」

 と、大手紙の社会部記者。

「河村さんがPTA連の会長に就いたのは5年前。だからその期間分だけ簡単に確認した。そういうことだと思います。この日の会見では結局、刑事告訴の事実以外、さほど目新しい情報はありませんでした。ちなみに河村さんの前の会長は森喜朗元総理で、森さんは現在も最高顧問です」

 香川前会長の不正は昨年11月、連合会の内部監査で発覚した。前会長は使途不明金を隠すために通帳を偽造した事実を認めて会長職を辞任。平河町の自宅を担保に銀行から2億円を借り、うち1億5千万円を弁済に廻したが、

「残る2億5千万円超は穴が開いたまま。前会長は連合会側の調査に対して“口座管理は事務局長が行っていた。私は、私的流用はしていない”と説明。ではなぜ1億5千万円を弁済したのか、その理由もよく分かりません。一方で、連合会とPTA連の両団体で資金管理を担当し、昨年末に退職した事務局長は“前会長の指示で出入金していた”と話している。2億5千万円超はどこへ消えたのか、依然として分かっていないのです」(同)

 連合会は1984年4月の設立。文科省の所管外の任意団体で、現在、全国47都道府県に約8千園ある私立幼稚園が加盟している。運営は各幼稚園から集める年間2億円ほどの会費や寄付金で賄われる。

 主な事業は幼児教育の調査研究、教職員の資質向上活動や福利厚生などだが、かつて連合会の前身組織で事務局長を務め、現在は「幼稚園情報センター」代表である片岡進氏によると、

「全日本私立幼稚園連合会の第一の目的は、幼稚園教育の振興と幼稚園経営の安定を図る政策推進、文科省からの補助金増額の活動、つまりは政治活動です」

 とのこと。続けて、

「総会や全国園長研修会、PTA全国大会などには多数の国会議員が参列し、特に自民党と深い関係にあることは周知の事実です」

文教族へのロビー活動

 なるほど。幼稚園の名を冠した組織にしては、なかなかに生臭さも漂うのだ。

 集めた会費や寄付金は、これらの事業活動のほか、国際交流や災害対策に向け積み立てる基金に充てられ、収支決算や事業報告は年度ごとに内部監査を受ける仕組みになっていた。ところが今回、その基金がほぼゼロになっていたわけである。

 だからこそ会見の場でも、同席した河村元官房長官に記者たちの関心は向いたのだったが、

「今回、明らかになっていない使途不明金があるとの報道を見て、はっきりと思い出したことがあります」

 と、PTA連の元役員が声を潜めて語る。

「2000年4月、森喜朗総理誕生当時の話です。当時の全日本私立幼稚園連合会の会長(故人)から“お祝いをしよう”という話が出た。それで、東京の市谷にある私学会館の事務局に会長以下、幹部と事務方の4、5名で集合。そこからタクシーに分乗して総理官邸へと向かったのです」

 お祝いは現金1千万円。古風にも風呂敷で包んであったという。

「ある幹部は反対したものの、当時の会長がそのまま包みを手に官邸に入ってしまった。総理就任のお祝いを伝え終え、会長が“お祝いを持ってきたんだけど”と、森総理に渡そうとした。総理は中身を察したのか、“ここでは受け取れないから”と言い、側近であり、文相経験もある文教族の有力議員のもとへ行くよう指示されました。それで衆議院第一議員会館へ足を運び、その議員に包みを直接手渡したのです」

 他方、PTA連の別の元幹部からはこんな証言も。

「森総理就任の翌年、年度末の監査が行われたときのこと。出金伝票をチェックしていた監事が、印鑑を捺(お)す作業中に妙な伝票を見つけました。出金額の欄に200万としか記されておらず、領収書も出金先の記入もない伝票でした」

 その数は複数枚、額にして千数百万円分にものぼり、

「その監事は事務方に詰め寄って“これはなんだ!”と質しました。すると事務方からは“森さんのところに持っていき、そこから文教族の先生たちに配ってもらっています”との答えが返ってきた。監事は、そんな大きな額だと目立つからマズいと諫(いさ)めたものの、結局そのまま通ったといいます。監事があとから森総理関連の政治資金収支報告書をチェックしたところ、寄付のような形では載っていなかったそうですが……」

 このころの森総理はすでに、麻生太郎、中曽根弘文、河村建夫といった錚々たる顔ぶれの上に君臨する文教族のドンだった。

 00年に総理就任後、連合会会長とは4、5、8、9、12月と続けざまに官邸などで面会したことが当時の首相動静で確認できる。

 ともあれ、祝い金1千万円にしろ、出金伝票200万円の件にしろ、実際に森元総理をはじめ政治家の手に渡ったかは定かではない。だが、少なくとも連合会サイドから文教族への“実弾”絡みのロビー活動があったことをうかがわせる証言ではある。

 森元総理が連合会などから金銭を受け取った事実はあるか。本人に尋ねたところ、

「そのような事実はありません」

 と、代理人弁護士を通じて回答。証言に出た事務方の男性も、

「ありえない。100%ない」

 と口を揃えたが、00年当時は就学年齢の引き下げが議論されていた。連合会はこれに関し、小学校教育が早く始まれば幼稚園児減少に直結すると猛反対。森元総理も連合会と歩調を合わせ、やがて議論は立ち消えとなった。森元総理は連合会の2年後に設立されたPTA連の初代会長。その関係上、連合会と同じベクトルであっても不思議ではなかろうが、やはり気になる同調ぶりである。

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