五輪が開催されたら「マスクをしていません!」報道だらけに 「最悪の事態を心配」ばかりでいいのか(中川淳一郎)

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 もしも東京五輪が観客アリで開催されたとしましょう。外国から客は来ない方向になるようですが、「日本国内に住む人は国籍問わずOK」となったとします。その場合にテレビがどんな報道をするか予想してみます。

「選手は基本的には選手村と競技会場の往復のみ」となるようですが、大勢のスタッフ・役員までコントロールできるかは甚だ疑問。夜は外に出たくなるのでは。そんな前提条件に立ってみます。

 2019年、思えばテレビは「東京の暑さ」を五輪の最大の問題点に挙げていました。カタールで行われた世界陸上の女子マラソンでは68人中28人が途中棄権し、完走率はわずか58・8%。これは過去最低だったそうです。これを受け、ビビッたIOCはマラソン会場を札幌に変更させます。

 テレビは日々「熱中症が出る」と煽り、小池百合子都知事が提唱した「かぶる傘」や「打ち水」を「こんなもので対策なんてw」とバカにしました。マラソンのために東京の道路を300億円かけて遮熱性舗装にしたことについても、「多少の効果しかないでしょ?」と冷笑し、札幌移転が決まったら「ムダ金使って……」と批判しました。

 テレビの体質というのは「とにかく最悪の事態を心配する」ことこそ重要視されているのでしょう。それは原発事故報道の際に専門家が、「メルトスルーはしない」「格納容器は頑丈」と初期の頃、楽観論を述べたことが影響しているのかもしれません。

 そして五輪の報道ですが、ズバリ、テレビが求めるのは「コロナ感染症対策の不備」と「協力しないバカ」を晒すことです。競技そっちのけで嘆いてみせる未来予想図が見えてきます。リポーターは競技会場で「あーっ、消毒液をつけないで会場に入る人がいますね!」「観客の中にちらほらマスクをつけていない人がいますね!」「あーっ、売店に長蛇の列ができていますね! 密です!」と呆れてみせる。

 また、2019年のラグビーW杯の時にしきりと問題視したのが、「酔っ払って陽気にはしゃぎ過ぎる外国人」です。新宿ゴールデン街では、ラグビーボールを持ってラグビーごっこをする酔っ払ったオーストラリア人が大量に登場。挙句の果てにはウェールズのサポーターとスクラム合戦をする様子を見て、「あーっ、危ない! 通行人にぶつかります!」などとやっていた。

 恐らく今回もテレビは「街中で酔っ払ってはしゃぐ外国人」の絵面を探しに繁華街に出ることでしょう。そして「あー、こんなに密着して肩組んでお酒飲んでます! マスクをしていません!」なんてやる。

 緊急事態宣言下の東京では、飲食店の営業終了後の20時以降、公園や路上で缶ビールや缶チューハイを飲んでいる人々を撮影し、「あーっ、マスクもせずにお酒を飲んでます!」とやり、飲んでいる人に「なんで飲んでいるんですか」と聞く。取材された人はバツが悪そうに「店が終わってしまったんで……」と言う。

 テレビが「自粛警察」となりマスク非着用者を非難するのですが、いや、36℃の東京でマスク着用を義務化した方が、熱中症出て医療崩壊するぞ。キミたち、2019年の報道の原点に戻りなさい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年3月25日号掲載

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