JTBが「あえて中小企業」になる理由 税法上のメリットが

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 旅行会社首位の名門JTBが「中小企業」になる。2020年3月期の連結売上高は1兆円超、従業員数もグループ全体で約2万7千人を数えるというのに驚きだ。業界記者いわく、

「3月31日付で資本金を23億400万円から1億円に減資します。1億円なら売上高や従業員数によらず税法上は中小企業になる」

 JTBは明治45年、「外客誘致」を目的に設立された任意団体ジャパン・ツーリスト・ビューローを源流とする。戦後、財団法人日本交通公社となり、昭和38年に株式会社化された。

 今回の減資について、

「コロナ禍による業績悪化を踏まえ、財務基盤の健全化を図るため」(同社広報室)

 と説明する。では、なぜ減資が財務の健全化につながるのか。毎日新聞社や航空会社のスカイマークも1億円への減資を発表したが、

「一般的に減資分は累積赤字の穴埋めに使えます。それによりバランスシート上の見た目がよくなるメリットがひとつありますね」

 とは税理士の浦野広明氏。

「さらに中小企業となることによる税法上の特典が大きい。赤字を出した法人は税制上の控除を受けられますが、大企業は控除に上限が設けられている。この点、中小企業は事業年度に生じた欠損金、つまり赤字について向こう10年間にわたって繰り越して控除を受けることができるんです」

 同社の20年9月中間連結決算では、純損益が過去最大の781億円の赤字だった。仮にこのまま700億円規模の赤字となった場合、次年度に100億円の利益が出ても相殺されるし、依然600億円の欠損があるものとしてさらに翌年度も利益から差し引かれる。こうした措置が10年間適用されるのだ。

 これは国税面のメリットだが、地方税の利点もある。

「企業に対しては、所得だけでなく給与や利子にも税を課す『外形標準課税』の考え方が適用されますが、資本金1億円以下ならその対象外なのです。つまり、地方税の法人事業税はそれだけ安くなります」(同)

 このたびグループ従業員の6500人削減など構造改革案を発表したJTB。

「減資のデメリットは対外的信用の低下くらい。ただしJTBほどのブランド力があれば影響もわずかでは。税法上の特典をなりふりかまわず利用するのは企業の論理としては当然です」(同)

週刊新潮 2021年3月11日号掲載

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