「捜索終了、生存者なし」 被災地の倒壊家屋に残された謎のマーキングとは

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倒壊家屋に残された謎のマーキング

 東日本大震災から10年が経過するが、当時現場にいたカメラマンは度々不思議なスプレーサインを目にしたという。一見異様なそのマーキングの写真からは、各国の救助隊が懸命に捜索活動を行った軌跡が見て取れる。

(「週刊新潮」別冊「FOCUS」大災害緊急復刊より再掲)

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 津波に呑まれた被災地を歩いていると、スプレーで描かれた不思議なサインによく出合う。

 壊れた家の壁に、殴り書きされたアルファベットや数字。丸と四角の線で囲んだのもあれば、四角いだけのものもある。そうかと思えば、○印に×を記して文字がないものも。共通しているのは、赤く大きな文字で書かれ、離れた車道からもはっきり見えることだ。じっと見ていると人の顔に思えてきたりもするが、もちろん落書きではない。被災地に乗り込んだ救助隊が残していったマーキングだ。

「そのなかでも四角を大きな円で囲ってあるのは、捜索救助を行う場合の世界共通のマーキングです。文字や数字は次のチームにきちんと情報を引き継いで、一度捜索したところを重複して捜さないため」(国際協力機構の担当者)

 今回の震災では、20の国と地域から救助隊や医療支援チームが日本に駆けつけたが、岩手県大船渡市にはアメリカ、イギリス、中国の3カ国から派遣されている。壁に〈UKISAR〉とか、〈CISAR〉とあるのは、それぞれイギリスと中国の国際捜索救助隊(International Search And Rescue)を表す。彼らは割り当てられた地域をしらみ潰しに捜索しては、マークを書き付けるのだが、混乱を極めた被災地では必ずしもきちんと徹底されているわけではない。例えば家によっては国際捜索救助隊のマーキングと○印に×が一緒に記されているが、これは日本の救助隊が踏み込んだあとに米国チームが再び捜索に訪れたことを意味する。また、イギリス隊のマーキングでは、遺体があったのかどうかも分からないし、中国チームのそれも、かなりはしょったものだとか。

米国チームのマーキングを読み解くと…

 いちばん国際ルールに則っていたのは米国チームで、大船渡市の半壊した家屋の壁には〈GO USA-1 1540 16-3-11〉とあるのが見える。

 市の救助関係者に解説してもらう。

「米国ではサンフランシスコで国際的な訓練も行われており、今回、バージニア州やロサンゼルスから2チームを派遣しています。“USA-1”というのは、そのどちらかでしょう。描かれている大きな円は建物を含めた周辺エリアを、中の四角は建物内部を捜索したということ。真ん中の水平線はここでの活動を終えたことを意味している。四角の左右には、それぞれ生存者数と遺体の数が記されます」

 このマーキングによると、米国チームがやって来たのは3月16日の午後3時40分。左右のマルに見えるのはゼロのことだから、この家には生存者も遺体もなかったことになる。

 瓦礫の街に鮮やかに残されたスプレーサインは、被災者の運命を書きつけた記録だったのだ。

2021年3月9日掲載

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