ラランド・サーヤが“アンチに苛立った時”に聴く曲は? Awichに自分を重ねて

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もどかしい日々を支えてくれた曲

 お笑いコンビ・ラランドのサーヤは、会社員との「二足の草鞋」で出場した2019年のM-1グランプリ準決勝で注目を集めた。現在は毎日のようにテレビに出演する彼女だが、今なおSNSでは会社員との両立であることを揶揄する声も。そんなとき、彼女を勇気づける女性ラッパーとは――。

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――朝方にあのラッパーが女の子をお持ち帰りする頃 オレは持ち変えるマイクから吊り革へ

 朝10時から夜10時までの労働、勤務後は深夜まで職場近くのガストでネタ合わせ。翌朝7時台の満員電車に揺られ、また職場に向かう。3年前はいわゆる“激務”だった。会社員と芸人を両立する中で、この生活リズムが私の普通になっていた。

 早朝、クタクタの体でつり革を掴みながら聴いていた音楽が冒頭の一節だ。私と同じく会社員とのパラレルキャリアでラッパーをしている狐火が「35才のリアル」という楽曲に綴った、赤裸々な歌詞。

――寝る前に何度も願った 夜が明ける頃には有名になってろ 役職に就いて行く同世代のボーナスぐらい ライブのギャラだけで稼げる可能性をまだ握ってる

 ライブ後、打ち上げに行って女の子と遊ぶ芸人たちと、翌朝の仕事を考えて早めに退散する私。彼の歌詞が自分自身とリンクした。

「真剣じゃない」だとか「片手間のくせに」だとか思われているんじゃないか。結果が出なければ出ないほど、ネガティブな思考は加速した。もどかしさを感じた日は、狐火のポエトリーを聴いて気持ちを落ち着かせた。

「素人が出てくんな」

 転機となったのは、M-1グランプリ2019。敗者復活戦から初めて準決勝に進出し、これが私たちのテレビ初出演となった。放送直後から多くのメディアオファーがきた。やっと光が見えた気がした。

 年始の大きなネタ番組、トークバラエティやゲーム特番など、今まで仕事終わりの酒のつまみとして録画していた番組に自分が出ている。画面の中で、ひな壇に座って照明に当たっている。実感もないまま、目の前に差し出される仕事を有り難く受けていった。

 メディアは私の肩書きを称賛した。しかし、「二足の草鞋」というラベルを貼られて世に出たとき、世間の空気は案の定キンと冷たかった。オンエアが終わるたびに知らないアカウントから心無いメッセージが届く。「素人が出てくんな」「会社員だからテキトーにやってるんだろ」「他の芸人に失礼」。SNS上には偏見にまみれた鋭い言葉が溢れていた。

 ふと苛立ちそうになるその瞬間、Beatsのヘッドフォンで耳を塞ぐ。周りの音が消えるギリギリまでボリュームを上げる。頭蓋に力強い女性の歌声が響き渡る。

――律儀に Hate くれて何より Rich bitch shit ジェラスも醍醐味

 沖縄出身の女性ラッパー、Awichは「Poison feat. NENE」の中で、Hateこそ醍醐味だと歌い上げている。私は毎回このラインに喰らってしまう。この楽曲が収録されているアルバムのタイトルは「孔雀」。彼女は、毒を持つ虫や蛇を好んで食べる「孔雀」と自分自身を重ねたと言う。

 アンチやヘイトに直面したとき、私は真っ先にこの曲を脳内で再生する。人間の弱さや僻み、悪意という毒をも喰らい、美しく羽を広げ続ける孔雀でいるために。

サーヤ
1995年東京生まれ。大学在学中に漫才コンビ「ラランド」を結成。広告会社に勤めながらフリーの芸人として活動。

2021年3月8日掲載

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