小泉純一郎が広告塔の太陽光発電会社のグレーな経営実態 息子・孝太郎もCMに出演
SDGs(持続可能な開発目標)を看板に掲げ、サステナブルな未来を目指す太陽光発電会社――。反原発の旗手・小泉純一郎元総理(79)が広告塔を引き受けたのも頷ける。しかし、その実態はクリーンどころか、グレーな疑惑にまみれ、事業は持続不可能な状態に……。
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その写真には、歴代最高の80%を超える内閣支持率を誇った、かつての宰相の姿があった。往時と変わらぬ白髪の“ライオンヘア”で、顔をほころばせるのは小泉純一郎元総理。問題は、その左隣で満面の笑みを浮かべる恰幅の良い男の存在だ。
彼の正体は、目下、金融業界関係者が固唾を呑んで動向を注視する人物、株式会社テクノシステム(以下、テクノ社)の生田尚之代表取締役(47)である。
横浜ランドマークタワーに本社を置くテクノ社は、太陽光発電や海水の淡水化システムなどを手がけ、2018年、19年の11月期には、共に160億円超の売上高を計上している。
そんな企業の代表と元総理が深い関係にあるのは間違いない。政界引退後、極端にメディアへの露出が減った小泉氏だが、昨年は2回にわたって、生田氏との特別対談広告が「日経新聞」に掲載された。
しかも、自然エネルギーへの取り組みを熱く語る生田氏に対し、小泉氏は、
〈すごいな。生田君の仕事は夢がある。私は、日本は世界最先端の自然エネルギー大国になれると信じている。自然を我々の生活に生かす。その実現に向けて、ぜひこれからも頑張ってほしい〉(20年9月4日付)
と手放しで持ち上げて見せた。では、抜群の知名度を誇る元総理を広告塔に担ぐこの企業は、なぜいま注目を集めているのか――。
金融業界に激震が走ったのは2月5日のこと。
SBIソーシャルレンディング(以下、SBISL)が、〈貸付先の事業運営に重大な懸案事項が生じている可能性が認められた〉として第三者委員会の設置を発表したのだ。同社は、北尾吉孝氏が率いるSBIホールディングスの100%子会社。9日には代表取締役の織田貴行氏が取締役に降格し、金融庁から「報告徴求命令」が出されていたことまで発覚した。
そこで浮上した疑惑の〈貸付先〉がテクノ社だった。
まずはSBISLとテクノ社の関係を説明しよう。
SBISLが扱う“ソーシャルレンディング”は、お金を借りたい企業と、お金を貸したい一般投資家を仲介するサービスである。
図で示したように、SBISLは、不動産投資や自然エネルギー開発といったプロジェクトごとにファンドを組んで投資を募り、個人投資家から集めた資金を事業者に貸しつける。ソーシャルレンディングでは事業者として合同会社を立ち上げるのが一般的だが、これは資金の受け皿に過ぎず、実際の事業に携わるのは別会社だ。
「2019年11月に〈SBISLメガソーラーブリッジローンファンド24号〉、同じ年の12月に〈同25号〉という太陽光発電事業の資金を募るファンドが立ち上がりました。両者とも実質的な事業主体はテクノ社で、〈24号〉は8億5600万円、〈25号〉は9億1千万円を集めています」
そう打ち明けるのはテクノ社の元社員である。
このふたつのファンドは共に1口5万円から出資でき、運用期間は12カ月。投資家が受け取る配当の名目利回りは7%だった。元本保証がないとはいえ、超低金利時代とは思えないほど高利な金融商品である。一方、ソーシャルレンディングは、大手の銀行が手を出したがらないプロジェクトや少額融資に対応するため、ハイリスク・ハイリターンな側面を持ち、事業者への貸付金利も高い。実際、〈24号〉と〈25号〉の貸付金利は8・5%に設定された。
「これらのファンドにも、受け皿となる合同会社が設立されました。そこに貸しつけられた資金は、工事請負や設備ID、つまり、個別の発電設備に割り振られる“売電権利”の代金などの名目でテクノ社に流れています」(同)
本来であれば、この資金を用いて発電施設などが作られ、その権利を売却あるいは貸与することで元本を返済。投資家に出資金が償還されることになる。だが、
「テクノ社はこれまでに200億円近い資金を調達しながら、大部分を募集時の目的のために使っていなかった。合同会社からテクノ社に流れた資金は、複数のトンネル会社を通じて、借入金返済に充てられてきたのです。そして、ファンドの返済期限が迫ると、テクノ社は新たなファンドを立ち上げ、その資金を返済に回す。要は、自転車操業に陥っていたわけです」(同)
デフォルト危機
無論、そんな状態が長続きするはずもない。
別の元社員によれば、
「施設用地には工事途中や未着工のものも少なくありません。テクノ社にいた頃は終日、下請けの建築業者や地元の役所からのクレーム対応に追われていました。それでも生田社長は“会社が上場すれば資金はいくらでも手に入る”と考え、日本での上場だけでなく、シンガポールでの上場を画策したことも。ただ、すべては絵に描いた餅。ついに進退窮まったのは、〈24号〉と〈25号〉の返済期限が間近に迫った昨年10月頃でした。生田社長が窮状を報告すると、SBI側が、返済期限を迎えたものの設備が完成していないプロジェクトをテクノ社側から買い取り、その金を返済に充てたようです。これが事実ならば両者でデフォルト(債務不履行)危機にフタをしたことになります。ただ、その後もテクノ社の経営状態は好転しなかった」
結果、SBISLに対して金融庁から厳命が下されたのである。この件を取材するジャーナリストが言う。
「テクノ社は熱海にホテルを建設するプロジェクトでも約30億円を集めています。しかし、3月完成予定のはずが、2月上旬に足を運ぶといまだに更地のままでした」
実は、テクノ社はソーシャルレンディング以外でも金策に走り続けていた。
「懇意にしていた自然エネルギー会社の代表から決算日に5億円を借り入れ、翌日に返済したこともあったようです。借金を売り上げに計上することで水増ししていたとなれば、“粉飾”を疑われても仕方がない。また、大手の銀行からの融資が望めなくなると、中小の地銀や信金に狙いを定め、現在も30行以上から120億円程度を借り入れています。そして、融資を受ける際、生田社長が広告塔に利用したのが他ならぬ“小泉さん”でした」(先の元社員)
冒頭で紹介した小泉氏と生田氏の写真は、商談にも用いられるテクノ本社の会議室に飾られている。それ以外に、生田氏がSBIホールディングスの北尾代表や、小池百合子都知事、麻生太郎副総理と一緒に撮影された写真も並んでいるという。とはいえ、生田氏との結びつきが最も強いのは、やはり小泉氏だ。
「ふたりを繋げたのは生田社長に5億円を貸したとされる代表でした。テクノ社の“最高顧問”の名刺を持っていた彼は、5、6年前から赤坂の割烹料理店『津やま』に通い始め、この店を行きつけにする小泉さんともカウンターで飲む関係だった。彼が女将に頼んで、生田社長を小泉さんに紹介してもらったそうです。生田社長は“自然エネルギーをやってると自己紹介したら意気投合した”と自慢していました」(同)
「津やま」の女将は、事実関係を概ね認めた上で、
「SBIのことは新聞に載っていましたし、テクノ社についても噂は耳にしていますけど、生田さんからは連絡がないので……。生田さんに勧められて私もテクノ社に投資したんですが、当時から“上場を目指している”と仰ってましたね」
この店での出会いを経て、生田氏と元総理は関係を深めていく。
「反原発」に食い込む
一昨年には小泉氏の長男で、俳優の孝太郎がテクノ社のCMに起用された。パリッとしたスーツ姿の孝太郎は、〈テクノシステムは、 「水」「食」「エネルギー」に関するテクノロジーで、SDGs経営を実現します!〉と同社をPRする。
また、次男の進次郎環境大臣は、30年までに日本の総発電量に占める再生可能エネルギーの比率を40%まで高めると宣言したばかり。「太陽光発電会社」にすれば、小泉家は広告塔に打ってつけだろう。しかも、
「小泉さんが顧問を務める“原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟”の会長で、城南信用金庫元理事長の吉原毅さんも、生田社長を買っている。小泉さんが吉原さんに生田社長を紹介したという噂もある」(元社員)
この点について吉原氏に訊ねると、
「生田さんは真面目な方で、熱心に太陽光発電に取り組んでいた。技術力もあるし、今後に期待ができると考え、城南の横浜支店に話を通して取引を始めました。小泉先生と生田さんには面識があったようで、私が小泉先生から生田さんを紹介されたり、融資の口利きをされたことはありません」
口利きはなくとも、生田氏が小泉元総理の反原発人脈にまで食い込んでいたのは間違いない。実際、城南信金も昨年時点で約3億円をテクノ社に融資していたとされる。
だが、SBISLもこれ以上、テクノ社を庇い立てするのは困難。テクノ社が手持ちの資産を売却して凌ぐのにも限界があろう。となれば、個人投資家に災厄が降りかかる危険性は高い。
ソーシャルレンディングの問題に詳しい太田賢志弁護士が警鐘を鳴らす。
「確かに、ソーシャルレンディングで貸しつけたお金が、既存の借入金の返済に充てられるケースはあります。そのため、SBISLのようなファンドを募集する業者は、第二種金融商品取引業の登録を受けた上で、貸付先の審査・モニタリングをする義務があります。そうした義務を怠り、顧客に対して十分な説明をしないまま、返済能力を欠く企業に貸しつけるファンドを募集していたのであれば、SBISLの責任が問われる事態だと思います」
テクノ社に信用を与えた小泉氏にも飛び火しかねないが、同社との関係を尋ねても返答はなかった。
元総理の威を借りて、多額の資金をかき集めた「太陽光発電会社」も、日の出の勢いを取り戻すどころか、今や斜陽。日が没する寸前である。