熱狂的阪神ファン「本庶佑」教授が訴える「巨人びいき判定」 AI判定導入を熱弁!

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 江戸時代の大名家の内紛を指す「お家騒動」は、現代でも組織や家族間でしばしば見受けられる。とりわけ阪神タイガースでは「伝統」とされ、本誌(「週刊新潮」)が創刊された1956年にも“ミスター・タイガース”藤村富美男を巡ってトラブルが起きていた。2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑・京大高等研究院特別教授(79)は、70年を超す虎党。少年期の想いとともに、打倒巨人に向けた“秘密兵器”の構想も明かした。

(「週刊新潮」創刊65周年企画「65年目の証言者」より)

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「僕は京都の生まれですが、幼少期から高校までは山口県宇部市で育ちました。決してタイガース一色の地域ではなかったのですが……」

 本庶氏はそう前置きしながら、

「子どもの頃、野球に詳しいガキ大将が近所にいて、よく一緒に野球ゲームをしました。選手の写真入りカードで打順を決め、サイコロを振ってヒット、アウトと遊ぶのですが、やっぱり川上(哲治)や大下(弘)、藤村と、子どもにとってホームランを打つ選手は英雄。特にそのガキ大将から藤村がいかにすごいかを聞かされ、気がついたらタイガースファンになっていました。以来ひと筋です」

 藤村は49年に安打・本塁打・打点の3部門のシーズン記録を一気に更新し、また2リーグ分立後の50年にはセ・リーグ最初の首位打者となるなど、輝かしい成績を残す。実際に少年時代、本庶氏はそのミスター・タイガースを目の当たりにしたという。

「オープン戦で、タイガースが宇部の市民球場に来たのです。プロ野球の試合なんて1年に1度あるかどうかの大イベントで、当時、入場券は商店街の景品で貰ったりするもので僕は持っていませんでしたが、友人と球場に行ったら、開門と同時に人波に押されて中に入っていた。つまり無銭入場してしまったわけ(笑)。超満員で、たしか外野の端で観戦したと思います」

 藤村は当時、選手兼任監督だったというのだが、

「代打で自分が出ようとしたら、選手たちが“それはないやろ”と反対して何やらグラウンドで揉めている。それが客席からはっきり見えたのです。何千人という観客の前で言い合いをするほど、当時は関係が悪かったのでしょう。さっそくガキ大将にこの話をしたところ、トラブルの背景を細かく解説してくれました。でも僕は、そんな難しい話より“憧れの藤村になんで打たせないんや”という気持ちのほうが強かったのです」

 本庶少年の目にした光景は、のちに大きな事件として表面化することになる。

次はイグ・ノーベル賞?

 54年から助監督を兼務していた藤村は、前監督の更迭にともない55年シーズン中から監督代理として采配を振った。そして翌56年、正式に兼任監督となったのだが、選手とのコミュニケーション不足などもあり、シーズン終了後の11月、十数人の選手らがオーナーに監督の解任要求を突きつける騒ぎが起きた。世に言う「藤村排斥事件」である。

 内紛は2カ月にわたり、例えば56年12月5日付の「毎日新聞」朝刊には、

〈解決までなお多難〉

 との見出しで、

〈阪神タイガースの内紛は藤村監督の感情過多の性格が選手間とくに中堅選手との間にミゾを作り、中堅選手の“藤村さんが監督では楽しい野球ができない”というもつれをどう解きほぐすかが問題となっていた〉

 そう解説されている。その後、同年12月30日には会社側と選手側とで話し合いがもたれ、双方が歩み寄ってようやく解決をみたのだった。これには本庶氏も、

「ともかく阪神は揉め事が多かったですよね」

 というのだが、そこはさすが“虎ひと筋”で、

「僕の学生時代は小山(正明)、村山(実)という大投手がいて、テレビで観るのが楽しみでした。チームの優勝は64年から85年まで間が空きましたが、僕は“いつかは来る”と常に応援していました」

 本庶氏は85年に阪神を日本一に導いた吉田義男・元監督から、人づてに“後輩の岡田(彰布)が今度監督になるから、後援会を作りたい”と打診され、04年から後援会長に就任。翌年に岡田監督は優勝を引き寄せた。さらには科学者の視点でも阪神を支えるのだ。伝統の一戦の際、球審の判定が“巨人寄り”ではないかとの疑念をかねて抱いてきた本庶氏は、

「高速のボールは、人間の脳の信号処理能力の限界のため見えません。ましてストライクゾーンというのは仮想空間。肩や膝の高さは人によって異なり、カーブで入ったストライクなど、審判の眼に見えるはずがない。それは見えた気になっているだけで、球審のジャッジは人間の能力を超えているのです」

 そう指摘し、ある実験結果を紹介する。

「自分で首を動かしても、我々の視界は連続でなく停止しています。停めないで一緒に動くとめまいがするのです。めまいが起きないよう、体が動いても目に留まる映像をすべては認識せず、途中でスキップしているわけです」

 テニスやサッカーではビデオ判定が導入されており、

「ラインが引いてあるテニスコートですら、画像で見ないと間違えるわけです。まして線などない空間でボールが本塁上をかすったかどうかなど分かるはずがない。だから、もし球審が巨人ファンだったらストライクゾーンが変わってしまっても決して不思議ではありません。どんな神様みたいな球審でも、これは避けられない。ファウルチップなど人間のジャッジが必要な場面もありますが、ストライク・ボールの判定には絶対AIを導入すべきです」

 こうした“ミスジャッジ撃退装置”を開発した暁には、ノーベル賞にとどまらず「イグ・ノーベル賞」受賞も見えてくるのではないか──。

「いや、すでに大リーグではロボット球審の導入が議論されています。一球で試合の流れが大きく変わるゲームを、僕はさんざん見てきました。いつまでもあんな判定の仕方では、世の中から取り残されるだけですよ」

“タイガー理論”は熱を帯びるばかりなのだ。

週刊新潮 2021年2月25日号掲載

特別記念ワイド「65年目の証言者」第3弾 より

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