大手百貨店が“贋作”美術品を販売 制作者「画商でも99%は本物と間違える」

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 海千山千の手練れが跋扈する美術品や骨董品の世界。だからこそ、愛好家は信頼のおける目利きのもとへと足を運ぶのだが……。その鑑定眼も欺かれたとあれば、これはもう始末に負えない。

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 東山魁夷に平山郁夫など大家の贋作が出回っている――。昨年、こんな話が美術業界で囁かれはじめた。ある画商によると、

「12月ごろ、大阪の『かとう美術』が偽物を売ったことが分かりました。東京でギャラリーを営む人物が、美術商の交換会に出ていた平山作品に違和感を抱いた。調査した結果、東山と平山、片岡球子の3作家の贋作が不自然に多く流通している事実にたどり着いたのです」

 作品は東山が3、平山2、片岡5の全10点。おもに、平らな石や金属板に直接描かれた絵にインクをつけて摺(す)る、リトグラフと呼ばれる作品だった。

「リトグラフには、摺られた枚数と番号を示すエディションナンバー(ED)がついています。版画にはこのEDがあるので鑑定書はない。かとう美術はそこを突いてEDを偽造し、経営の厳しい百貨店に安く卸したわけです」

 なお真作の枚数は、作品1点につき数十枚から300枚といった具合である。

目の肥えた画商でも…

「美術商間で、本物は1枚、数十万円で取引きされます。百貨店には数十万~100万円前後で卸され、売り値は140万~300万円」

 と、在阪の大手百貨店の美術部員が明かす。

「昨年末、ギャラリーの方々からの連絡で贋作を認識し、即刻、3氏10作品の取扱いを中止しました。現在は百貨店同士で連携し、かとう美術の販売作品を調査中です」

 歩調を揃えるのは三越伊勢丹、大丸松坂屋、阪急阪神、近鉄、東急、京成、そごう・西武、天満屋の8社。

 そのうち阪急阪神と近鉄、そごう・西武の3社に、かとう美術との取引実績があった。大丸松坂屋は取引はないものの、10作品を扱ったことはあるという。各社とも作品の扱い点数や取引額は明かさないが、

「当該取引先に補償を求めた上で、お客さまに対しては返金などの責任ある対応をさせていただきます」(そごう・西武担当者)

 おおむね、このように回答した。先の画商曰く、

「騙した奴より騙されたほうが悪い。業界にはそんな暗黙の掟があり、自分ではむやみに真贋を判断せず百貨店を頼る方も多い。でも昔と違って目利きの美術担当者が減りました。かとう美術はそこも突いたんです」

 かとう美術の代表を関西の自宅に訪ねるも、答えは得られず。だが、代表の依頼で贋作を手がけた工房の職人が、重い口を開く。

「私が10作品すべてを摺りました。代表から初めて頼まれたのが約7年前で、1作品につきリトグラフを20枚ほど作った。制作費は60万~70万円です」

 リトグラフ200枚で600万円超の実入りだ。

「でも代表は贋作として売るなんて言わなかったので、せいぜい海外で売るのだと思っていました。すると昨年秋、代表が突然やって来て“私が贋作を売ったことになっている”と言うんです。暮れには警視庁に聴取されるし、もう大変でした。実は、私は昔、片岡先生の版画を摺ったこともあり、リトグラフの摺師も40年以上やっている。よほど目の肥えた画商でも、99%は本物とまちがえるでしょうね」

 こんな腕利きが相手とあっては、百貨店も分が悪かった。

週刊新潮 2021年2月18日号掲載

ワイド特集「いつものように幕が開き」より

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