「令和の巌流島」決戦を裁いた女性審判は花火師、本人が語った“柔道と花火の共通点”

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花火と審判、共通点は

――東京五輪で審判をすることは決まっているのですか。

 柔道の国際審判には世界ランキングがあります。もちろん上位でないとオリンピックは裁けません。東京五輪で選ばれるのは上位16人と聞いています。私は現在、ランク8位です。毎回の国際試合ごとに点数が付きますが、2年間の点数でランキングしてゆくので残る期間に大きな失点がなければ大丈夫かな。

――コロナ禍で東京オリンピックが再び危ぶまれていますね。

 インターナショナル審判資格を取って15年目ですが1か月も2か月も畳に立たないことなど初めて。ビデオや書物など研究するのと、畳に上がって選手と距離感を取りながら裁くのは全く違い、コロナで試合を裁けず不安でした。昨年11月の講道館杯で久しぶりに畳に上がれました。阿部vs丸山戦の後も国内では全日本女子選手権や全日本選手権も裁きました。現段階ではオリンピック開催の方向で進んでいるので選手同様、五輪に照準を合わせないと誤審が生まれかねません。五輪までになるべく多くの試合を裁きたいです。

――昨年はコロナ禍で中止でしたが、鍵屋は観客動員数日本一の江戸川花火大会も主催していますね。花火師になったきっかけは?

 最初は江戸川区だけでしたが途中から市川市も共催になりました。無事故が第一です。火薬に火をつけるなら普通は「危ないですから逃げ離れてください」なのに花火では多数の人を近寄らせます。危険物を扱っている認識がないとできません。安全への追及はスタッフにも徹底します。私は三姉妹の真ん中ですが一番おてんばで小学校二年生の時から花火師になると決めていました。花火師の父(修氏=14代目宗家)がかっこよくて「お父さんのような花火師になる」が目標でした。柔道家でもある父は自宅に柔道場まで作っています。花火も柔道も父からですね。

――お父様が「絶対」の家庭だそうですが、反発しなかったのですか。

 しなかったですね。母に「素晴らしいお父さんよ」と洗脳されていたからかな(笑)。父も83歳になりますから「安喜子に任せてよかった」と思ってもらえれば嬉しい。

――花火と柔道がさっぱり結びつかないのですが。共通点は?

 鍵屋では打ち上げは遠隔操作が100パーセントで花火師への危険度はかつてよりずっと低い。それでも何かあれば大惨事です。トラブルが起きて私が迷えばスタッフ100名の統率が取れず、大事故につながりかねない。「よし」と自分を信じて瞬時に指示を出さなくてはなりません。柔道も瞬時の判断で迷えば選手に不安を与えます。「迷わない覚悟」という意味でも共通します。花火には観客が感動してくれるリズムがあります。柔道の試合でも選手が思い切った試合ができるリズムを作ることが大事。エキサイティングな試合も審判が作るのです。

「世紀の一戦」を引き受ける覚悟があったのは、一回一回が覚悟を要する花火の仕事をしていたからです。花火師となって私自身一生懸命やれば悔いはなく次の道を開けることを学びました。柔道でも負けた選手に次の道が見えるような試合をさせてあげたい。選手に悔いの残る試合をさせたくないのです。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月9日掲載

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