コロナ禍で「郊外戸建て」に引っ越すのは成功?、失敗? 木更津、三島に移住した人々の声
自然に囲まれ、通勤時間も有効活用
こうした動きはさらに広がりを見せている。従来は都心通勤圏外と思われていたエリアに住み替える人もいるのだ。新型コロナをきっかけに、東京・目黒区のマンションを離れ、静岡県三島市内の中古一戸建てに移り住むことを決めた会社員の浅木健太郎さん(仮名・52歳)もこう話す。
「コロナの影響は経済的にも公衆衛生的にもしばらく尾を引くと考えて、引っ越しを決めました。購入したのは(最寄り駅から)バスで10分、築30年の1600万円の物件。今のマンションを売却すれば、2千万円くらい差額として残る計算で、経済的にも余裕ができる。うちの会社もコロナでこの先どうなるかわからないし、老後のことを考えると、このほうが得策だと判断しました。何より、東京よりも格段に新鮮な魚や野菜が半値近くで手に入るので、食費も安くあげられます。温泉も近くにたくさんあって、沼津まで出れば釣りもできる。今から老後が楽しみです。品川まで新幹線で約50分の通勤になりますが、ほぼ確実に座れますし、テーブルもついているのでPCで作業もでき、むしろ時間は有効に使える。すし詰めにもならないので、在来線より感染症の危険性は少なくなると思いますよ」
彼らのように思い切った住み替えをする人はまだまだ限られたケースだ。だが、首都圏を中心に中古戸建ての仲介を行っているある不動産業者はこう明かす。
「都内の職場付近に駐車場を借り、埼玉の春日部や加須、千葉の館山あたりに引っ越そうという人は何人かいましたね。皆さん、車での通勤を考えているようです。駐車場代がかさむのでは、と思うかもしれませんが、都心の商業施設併設などでは平日に限って一日中定額で駐車できる定期券というものがある。これなら、銀座の一等地でも月々1万5千円程で駐車場を確保できる。ガソリン代や高速料金を加えても、郊外移住による住宅費の削減分でカバーできる。何より車通勤なら、感染症のリスクが皆無ですからね」
都内でも戸建て分譲住宅が好調
「週刊住宅タイムズ」編集部の中野淳氏も話す。
「みずほ総研によると、リモートワークが可能になるのは全体の30%程度と試算しているので“職住近接”というトレンドはしばらく動かないでしょう。ただ、限定的とはいえ、リモートワークが可能な都心生活者に、『郊外移住』という選択肢が注目され始めたことは確か。都心の住宅開発に参入できない郊外拠点の中小のディベロッパーは『在宅業務環境』や『3密フリー』の住宅環境への需要に目をつけて営業活動を行っています」
同紙によれば、東京・練馬区光が丘で開発された、最大5LDKまで対応可能な戸建て分譲住宅が好調だという。ガラスの可変間仕切りなどで個室を創出できるプランで、全23棟中すでに18棟が成約済み。
開発業者は同紙の取材に対し「都内の5LDKのニーズの高さに加え、コロナ禍による在宅勤務によって、潜在需要を掘り起こした」と答えている。
「集合住宅から戸建て」「都心から郊外」という動きはまだまだ始まったばかりだ。住宅環境に求めるニーズの多様化はコロナ禍を契機に一気に進むかもしれない。
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