NHK紅白、「実は収録でした」の後出しはどうなのか もう「SONGS」の別撮りを流せば?

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 昨年、大晦日に放送された「第71回NHK紅白歌合戦」で、特別企画「ディズニースペシャルメドレー」ほか、YOSHIKI、Mr.Children、星野源、玉置浩二の4アーティストの歌唱場面が「生ライブ」ではなく「事前録画」だったことが明らかになった。芸能ジャーナリストの渡邉裕二氏は、こうした番組の在り方に疑問を呈する。

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 事前録画だったことは、1月20日に東京・渋谷のNHK放送センターで行われた定例会見で判明した。記者の質問に答える形で、「紅白」の番組責任者が明かしたのだ。ただし「演出上、時代によって色々な方法がある」と述べ、その是非に関する回答は避けていた。その後、記者から意見を求められた正籬聡(まさがき・さとる)放送総局長は「公共放送として大晦日に生(放送)を中心に歌で感動できる機会を作ることは大切だと考えている」と述べただけだった。

 正籬放送総局長も言うように、大晦日に「生放送」で放送してきたのが「紅白」のウリのひとつだったはずだ。

「ディズニースペシャル」のコーナーに関しては「録画」であることは一目瞭然だったろう。だが、他の4歌手が録画だったことについては、放送中も含め一切、公表されていなかった。会見で「紅白」の番組責任者は「(放送後に)聞かれたら答える用意はあった」と答えたという。

 もっとも「紅白」で「事前収録」と言うのは珍しいことではない。

 例えば11年にスペシャル出演したレディー・ガガは「事前収録」だったし、14年に神田沙也加が「みんなで歌おう!『アナと雪の女王』」企画に、同作でエルサを演じた米ミュージカル女優、イディナ・メンゼルと共演した時もやはり「事前収録」だった。しかし、これらは録画であることは前もって告知されていた。その点、今回とは事情が大きく異なるのだ。NHK担当の放送記者は言う。

「事前収録の話は、放送前から記者たちの間で知られていました。今回はコロナ禍での放送ということもあるので、三密を避けるためには、ある程度は仕方ないと思います。ただ『紅白』に限らず、生放送と謳う番組で収録したものを放送する際には、番組内で視聴者に対して明示すべきだと、個人的には感じます。だから、リハーサルの時に『紅白』担当のチーフ・プロデューサーに、視聴者に分かる形にするのか、尋ねたんです。チーフ・プロデューサーは『その時の判断』という曖昧な言い方をするだけでした」

 ビデオリサーチから発表された今回の紅白視聴率は、ワースト記録を更新した前年の37・3%を3ポイント上回る40・3%(第二部)となり、2年ぶりに40%の大台を回復した。ちなみに第1部の視聴率は前年の34・7%を0・5ポイント下回る34・2%(いずれも関東地区のデータ)。「数字もアップし、視聴者からも好評だった」(NHK関係者)だけに、「結果オーライ」と言うことなのだろうか。

 先の記者は続ける。

「今回は例年に比べて評価が高かったことは確か。しかし、多くの視聴者は、『紅白』は生で歌っていると思っているはず。そもそも『紅白』というのは、大晦日に東京・渋谷のNHKホールに、その年に活躍した歌手が一堂に会し、歌で競い合うのが基本的なコンセプト。今回、『ディズニー』の企画や、サラ・ブライトマン、クイーンのロジャー・テイラー、ブライアン・メイなども参加していたYOSHIKIの部分は演出上、仕方がないとは思います。しかし、ミスチルや星野源、玉置浩二まで、なぜ録画なのか。星野源に至っては、司会者とのトークは生で、歌唱部分だけが収録だったわけです。一体、どんな“演出上の事情”があったのか……。彼に限りませんでしたが、歌唱場面では、ただ画面上に『101スタジオ』のテロップを出すだけでした。これで録画を“明示”していた、というのでしょうか」

生だったから「国民的音楽番組」になったはず

 録画収録を許してしまうことは、「紅白」という番組の価値を大きく損ねると私は思う。

「紅白」のステージに立つことは、歌手にとっては大きな夢であり目標であるはずだ。事実、初出場の歌手は皆、そうした言葉を口にしている。また紅白を経験済みの歌手にしても、今年は出られるか否かの緊張感があり、出場が叶えば「一年の締め括りとして精一杯歌いたい」という意気込みを持つ。大晦日にNHKホールのステージに立って歌うことは、歌手としての醍醐味だったはず。そんな中で発揮されるパフォーマンスがあるからこそ、紅白は「国民的音楽番組」になったはずなのだ。

 ところが最近は、五月雨式に後からサプライズ歌手が発表されたり、歌手によっては中継が当たり前になった。そこに加えて「事前収録でもOK」ということであれば、もはや「紅白」は、単なるNHKの音楽番組に過ぎないということになる。

「今や、他の歌手との“横並び”を嫌う歌手や事務所は『駄々をこねればサプライズ扱いにしてもらえる』と考え始めています。観客を前にしての生歌唱を嫌うアーティストが、中継での出演を条件にするケースも聞きますね」

 と証言するのは、あるテレビ関係者だ。こうした要求が通用するのは、番組作りに苦労するNHKの事情もあるだろう。

「昨今はヒット曲も少なくなり、出演者の選考が難航する。特に紅組は大変だと聞いています。とはいえ、番組を盛り上げるためには目玉となる大物歌手が欲しい。本音では若い視聴者層を取り込みたいのですが、実際はYOSHIKIやユーミン、玉置浩二、さだまさしと言ったベテランを出さなければ、番組が締まらない。でも、そうしたベテラン勢にしてみれば『今さら紅白』ですし、大晦日まで仕事をしたくないという気持ちもある。その点、事前収録であれば、大晦日に働かなくていいし、歌唱シーンも納得する形で撮れる。なんだかんだで出れば、プロモーションには繋がりますからね」(同)

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