「医療崩壊は回避できる!」「神の手」外科医が訴える「医療オールジャパン体制の構築を」

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「炎上リスク」を負って提言

 医療崩壊が連日報じられた挙句、緊急事態宣言が出された日本。が、東京慈恵会医科大学で対コロナ院長特別補佐を務める大木隆生氏は「医療崩壊はしていない」と断言する。炎上リスクを覚悟の上で、現場を知る名医が行う提言とは。

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 新型コロナウイルスの感染「第3波」を受けて政府は7日に緊急事態宣言を再発令し、対象地域も、当初の首都圏4都県に大阪、愛知、福岡などを加え計11都府県に拡大された。

 もっとも共同通信の世論調査では、この再発出のタイミングが「適切だった」という答えが13・5%、「遅すぎた」が79・2%におよんだ。国民の9割以上は緊急事態宣言を、積極的に受け入れているようなのだ。

 無理もない。たとえば日本医師会の中川俊男会長は、「現実はすでに医療崩壊」と言い切り、新型コロナは「感染力がけた外れに強く、なによりも重篤化率、致死率の違いがある」と強調。多くの専門家やメディアが同様に訴えている以上、国民が怖がるのも当然だ。

 だが、そこに異を唱え、医療は崩壊していないと訴えるのが、東京慈恵会医科大学の外科統括責任者、および対コロナ院長特別補佐で、米国アルバートアインシュタイン医科大学外科教授も兼ねる大木隆生氏(58)である。

 血管外科の第一人者で神の手の異名をとる大木氏は、安倍内閣の未来投資会議でもコロナ対応への提言をした。本誌(「週刊新潮」)で「炎上リスクを負って」提言するのは、「政府の方針やメディアの情報に偏りがある」ので、「一医療者として大きな意味で医療を救い、国民の痛みや犠牲を少なくしたい」という思いからだという。

多大な費用をかけコロナ対策を行った

 だが、当初は大木氏も新型コロナをだれよりも危険視していた。

「昨年1月24日、新型コロナに関する最初の論文が医学雑誌『ランセット』に掲載されました。私がすでに中国人から得ていた生の情報も重ねて考えると、パンデミックになると予想できました。そこで1月28日に外科医局員を集めてこの論文を紹介し、以後、医局員に『大木COVIDレポート』をほぼ毎日、4月までに約80本発信しました。

 当初は、東京は武漢同様になると警鐘を鳴らし、一刻も早く緊急事態宣言を出すべきだ、と主張しました。全国ではじめて手術をキャンセルしたのも、おそらく慈恵の外科で、2月には延期できる手術は延期しはじめました。武漢のようになってもベッドが空いていれば人命を救えると考え、外科は病院に先がけてベッドを空けたのです。

 私は慈恵の教授会などでも『新型肺炎に備えよう』と強く訴え、慈恵全体としても真摯な姿勢をとりました。4月、5月は病院全体で不急の手術は極力取りやめ、通常の二十数%に減らしました。また、同じ建物内でゾーンを分けるのでなく、旧外来棟ともう1棟を新型コロナ用病棟にし、そこに最新鋭のCTを導入した。基礎医学者の協力も得てPCRセンターも作り、入院患者の水際対策も徹底させました。もちろん出費は多大でしたが、慈恵医大の新型コロナ対応は誇れるものでした。

日本独自の対策が必要

 ところが、3月になっても4月になっても武漢のようにならない。こういう感染症は地震と一緒で、震源に近いほうが被害は大きいはずなのに、東アジアは被害が小さかった。結果として、慈恵の病床使用率は、損益分岐点が80%程度といわれるのに、20%程度。新型コロナに真摯に向き合い、最悪に備えた慈恵の対応は杞憂に終わりました。

 ファクターXとも言われますが、人口10万人あたりの感染者数や死者数を見れば、欧米で多く東アジアでは極端に少ないことは明らか。そこで、それまで強い警鐘を鳴らしていた私も考えを改めたのです。感染率も死亡率も欧米の50分の1以下となると、欧米のデータもWHOの提言も、あまり参考になりません」

 こうして日本独自の対策が必要だと考えるに至って、提言を文書にまとめたところ、安倍内閣に採用されたという。

「日本および東アジア人、すなわちモンゴリアンは新型コロナに強いようだから、ロックダウンや緊急事態宣言に頼らず、医療体制を強化し、経済との両立、新型コロナとの共生を図るべきだ、という主張に朝令暮改しました。そして『大木提言』を執筆し、総理官邸に届けたのです。5~6月の段階では、日本はロックダウンや緊急事態宣言より医療体制の強化を優先したほうがいい、と意見する医師が安倍総理の周りにいなかった。だから総理は、疑問を抱きつつも選択肢を持てずにいて、そんななか、提言を評価し、私を未来投資会議民間議員に抜擢してくれたのです」

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