「高学歴Uターン女子」が田舎で経験した男尊女卑 「就労すれども定着せず」の現実

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女は子供を産む道具

 たとえ、それが本音であったとしても、今やそれを言葉に出せば“大いなる罪”になることを、都会のサラリーマンならば十分に分かるはずだ。

「でも、こんな会話が平然とおおっぴらに交わされているのが、地方の会社なんです。Iターン、Uターンを謳う前に、行政もこういう経営者への指導や、就労環境の改善にもっと力を入れるのが本来ではないでしょうか」

 2018年7月、私は『誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書』(東洋経済新報社)を上梓したが、そこで「移住すれども定住せず」という現実を指摘した。

 田舎の生活は想像以上にストレスであり、予想外の出費も少なくなく、数年で都市部に戻る人は少なくないのだ。

「地方の就労現場は、『就労すれども定着せず』です。地方自治体で就労支援を担当している人でさえ、求人情報に対する応募者数しか見ていません。職場環境そのものの改善にも努力すべきだと思います。なぜ若者が東京や大阪に出たっきり帰らないか、女は子どもを産む道具だくらいに考えている経営者がたくさんいるからですよ」

 丸山さんは冬のある日、駅前近くのショッピングモールの通路のベンチで、夕刻、うなだれて1人泣いていた。

 彼女のベンチの向こうには雄大な富士山がきれいな稜線をのぞかせていた。富士山の荘厳な景色の前で泣き晴らす女性に、ショッピングモールを行き交う者は誰も声をかけなかった。

嫁の人数はカウント外

 筆者は、思わず声をかけた。

「どうされましたか?」

 そう問いかけると、これまで紹介した話を打ち明けてくれたのだ。丸山さんによれば、外から嫁いできた若い女性らの苦労も多いという。

「旦那の実家から贈り物が届けば、必ず嫁の分は抜いてある。息子夫婦に饅頭が送られてきた時、息子と嫁と孫2人の4人家族ならば、饅頭は3つ。嫁の分はない。私らが嫁いできた時も、そういう扱いだったから。嫁は人間として勘定に入れないのがならわし」(87歳の地元女性)

 それがしきたりの地である。

「嫁いできて半世紀経っても、女は公民館での発言は許してもらえない」(74歳の地元女性)

 地元自治体がUターン、Iターンの就労率達成を謳うのはいいだろう。だが、今どきパワハラ、セクハラが蔓延した場所に留まり我慢し続けるほど、地方の若者とてバカではないのだ。

 なお、筆者が丸山さんの体験を記事にしても大丈夫かと訊ねると、こう応えた。

「ぜんぜん大丈夫ですよ。あの人たち、自分たちの生活圏の外で何を書かれようが、言われようが、痛くも痒くもないんです。田舎で世間体といえば、自分が住んでいる半径10メートルくらいなので、痛みを感じる感覚がないんです。ネットで自分たちのことを書かれようが言われようが、関係ないんですから」

 いやはや、恐ろしい“世界観”である。文化の違いにより、移住先が地獄と化すのは決して他人事ではない。まずは日常作法の全てを把握する、それくらいの覚悟を持った方がいいだろう。

清泉亮(せいせん・とおる)
1962年生まれ。近現代史の現場を訪ね歩き、歴史上知られていない無名の人々の消えゆく記憶を書きとめる活動を続けている。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月12日掲載

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