ミシガン州議事堂の不穏な「トランプ信者」たち 【特別連載】米大統領選「突撃潜入」現地レポート(20)

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 大統領選挙の投票日であった2020年11月3日から約4日間、『CNN』や『FOX』などのケーブルニュースを断続的に見続けた。

『CNN』が7日の正午前、ジョー・バイデンがペンシルバニア州の選挙人20人を獲得する見込みであることを伝え、獲得選挙人の合計が270人を超えてバイデンが46代の大統領に就任することが確実になった、と報じた。『AP』や『MSNBC』、『ニューヨーク・タイムズ』などもその速報に続いた。

 ミシガン州の投票総数は553万9302票で、そのうちバイデンが280万4040票を取り、得票率は50.6%を占めた。一方、ドナルド・トランプが264万9852票を取り全体の47.8%にとどまった。その差は票数にして15万票以上、割合で見ると2.8ポイント差となった。

 これは2016年のトランプ対ヒラリー・クリントンの時の、得票差数1万票超という僅差によるトランプの勝利と比べると、バイデンが明らかにミシガンを制したと言えるだろう。

 バイデン当確を聞いた私は車に乗り込み、ミシガン州議事堂前に向かった。

 州議事堂前に着くと、すでに数多くの星条旗や「Trump 2020」の旗がはためき、「Stop Counting Fake Mail in Ballots(不正の郵便投票の集計をやめろ)」や「Count Every Legal Vote(合法的な投票だけを数えろ)」などの手書きのポスターがあふれていた。

 バイデンが当選確実になったという事実に納得しないトランプ信者が200人近く集まっていたのだ。

 集会の指導者たちは、州議事堂の階段の上に立ち、代わる代わるメガホンを手に主張を語った。

その主張を要約すれば、今回の大統領選挙において大規模な不正が行われたため、バイデンの勝利は認められない。不正を排除すればトランプが当選したはずだ、というもの。

 こうした声は、トランプが11月5日、ホワイトハウスの記者会見で発言した次の言葉の焼き直しだ。

「もし合法的な投票だけを集計したなら、オレはこの選挙に簡単に勝っているだろう。しかし、もし、非合法な投票まで数えるなら、この選挙は盗まれることになる」

 トランプによれば、郵便投票も非合法な投票の大きな部分を占める。

 私はその後、数日間、州議事堂前に足を運び、トランプ信者の語るさまざまな主張に耳を傾けた。

トランプ配下が「不正選挙はなかった」

 結論から言っておくと、2020年の大統領選挙において、選挙結果が覆るような大規模な不正投票は行われなかった。トランプ信者の主張することは、そのほとんどが陰謀説や妄想、ウソのたぐいである。

 時間軸は多少前後するが、トランプの主張が間違いであるという2つの明確な証拠がある。

 1つは、米国土安全保障省傘下のサイバー・インフラ安全局(CISA)の局長であるクリス・クレブスが11月12日、

「11月3日の選挙は、米国史上、最も安全が確保されたものだった」

 との声明を出していることだ。

 トランプは2018年、共和党員のクレブスをCISA長官に推し、彼は上院で満場一致の賛成を得て長官に就任した。CISAの大切な役割の1つには、50州の選挙が安全に行われることが含まれている。

 つまり、トランプ自らが指名した選挙の番人によって、選挙で不正行為は行われてない、と太鼓判を押された形となったのである。それを受けトランプは同17日、ツイッターで、クレブスの主張は「非常に不正確だ」という理由で更迭を発表した。

 トランプの忠犬とみなされた司法長官のビル・バーも12月1日、『AP』の取材に対し、司法省とFBI(連邦捜査局)が合同で調査したが、

「今日に至るまで、大統領選挙の結果を覆すような大規模な不正は見つかっていない」

 と語った。

 トランプにすれば、司法の番人であり、自分自身の忠犬でもあったバーに手を噛まれたも同然である。トランプは同14日のツイッターで、バーが辞任する旨を伝えた。

 トランプ政権内の選挙を監視するCISAからも、法律の番人である司法長官からも、大統領選挙で不正行為はなかった、と明言されている。

 よってこの原稿は、トランプ信者の主張に寄り添うものではなく、彼らがどのようにして間違った考えにたどり着いたのかを検証することを目的にしている。

 集会の発起人の1人であるアダム・ハイロカー(39)は、選挙当夜の11月3日の午後10時から翌朝午前5時まで、開票が行われたデトロイトの「TFCセンター」に選挙管理人(poll challenger)として詰めていた。投票の違法性を指摘できる役割だ。

「ミシガン州で3日の夜、開票がはじまったとき、トランプが圧倒的に有利だっただろう。それが、午前3時前後に、投票所のガラスに板を張り付けて内部を見られないようにしたんだ。その直後、出所不明の多数の投票箱が運び込まれ、箱に入っていた16万票のすべてがバイデンへの投票だったんだ。この選挙が盗まれたことはたしかなんだ」

 そう話すハイロカーの腰には、「グロック19」という拳銃があった。

 デトロイトの開票担当者は、開票所内部を見えなくした理由を『ニューヨーク・タイムズ』の取材に次のように答えている。

 開票所で働く人々から、自分たちの写真や動画が勝手に撮られているという心配の声が上がった。

「マスコミだけが、開票の作業現場の映像を撮ることが許されているのにもかかわらず、それ以外の映像を撮ることをやめなかったからです」

 言うまでもなく、開票所に板を張り付けたのは、不正投票を覆い隠すためではない。

「ファクトチェックなど信じない」

 もう1つの論点は、10万票を超す不正投票が深夜に運び込まれたという点だ。

 トランプ信者の間でも、この数字についてはばらつきがあったのだが、正確には13万8339票がバイデンに入ったという主張だ。

 これは『ニューヨーク・タイムズ』や『USAトゥデイ』のファクトチェックによって否定されている。

 この数字は集計ミスの結果が、ほんの20分ほど公表されたものだったが、すぐ間違いに気付き数字は修正されていた。

 それを、トランプに近い保守系の団体「フェデラリスト組織」の主力メンバーの1人が、

「みんなが寝ている合間に、ミシガン州の民主党員たちが13万8339票を発見し、そのすべてが、魔法のようにバイデンへの投票だった」

 とツイッターに書き込み、それが拡散した。

 そうした自分に有利なデマを見逃すトランプではない。

 トランプは11月4日、デマをリツイートして、

「一体これはどうしたことだ」

 と書き込んだ。

『USAトゥデイ』は、突然、バイデンへの投票が増えたのは、郡による集計の間違いによるものであり、すぐに修正されているため、バイデン票が魔法のように増えたというのは「誤りである」と結論付けている。

 これは11月4日の記事である。

 その事実をハイロカーに伝えると、

「新聞のファクトチェックだって。そんなもの、信じないさ。新聞がどれだけトランプの足を引っ張ってきたのかを知っているだろう。『ニューヨーク・タイムズ』や『USAトゥデイ』がなんと言おうと、選挙当夜に大規模な不正が行われた結果、バイデンに大統領の当確が付いたんだ、と信じているよ」

 デトロイトから来たというデービッド・ドゥーメター(33)は、全身をトランプ関連の衣装で固め、

「不正投票が行われているので、再集計ではなく、再投票が必要だ」

 という手書きのプラカードを持っていた。

「3日の開票直後は、接戦州といわれるミシガン州やウィスコンシン州、ペンシルバニア州、ジョージア州のすべてでトランプが有利だった。それが一晩明けると、だんだん票差が縮まってきて、最後には逆転されている。それ自体がおかしいだろう」

 たしかに開票直後はトランプが優勢だったが、その後バイデンが盛り返したのには理由がある。接戦州の多くでは、最初に当日投票分を数え終えてから、その後、郵便投票の開票に移った。

 トランプ自身が、自身の支持者に郵便投票は不正の温床になるので、選挙日当日に投票に行くように、と呼びかけていた。一方、バイデンは、コロナの感染拡大を防ぐため、できるだけ郵便で投票するように勧めていた。『ピューリサーチセンター』の調査結果によると、トランプ支持者で郵便投票したのは32%に対し、バイデン支持者は58%。遅れて郵便投票の開票が行われれば、形勢が逆転するのに何の不思議もない。

 私がそう説明すると、「それだけじゃないんだよ」とドゥーメターは反論する。

「開票の時、ソフトウェアの欠陥があって1つの郡だけでも6000票のトランプ票が、バイデン票に切り替わったんだ。それ以外にも50郡近くで同じようなことが起っている。それだけ大規模な不正が行われた選挙を認めるわけにはいかない。だから、再集計ではなく、再投票が必要だと思っているんだ」

 この主張は、ミシガン州北部のアントリム郡で起きた、開票時の人的な集計ミスに起因している。

 アントリム郡は、4日午前4時に非公式な開票結果が公表されたが、手元にある投票用紙による結果が食い違ったためすぐに再度、集計をして、投票用紙に基づく正しい数字を確定して表示した、と発表している。

 ミシガン州政府も、アントリム郡での人の手によるミスであり、ソフトウェアの不具合によるものではない。もし、人的ミスが起っても、その後の集計作業との照合で発見され、修正されるようになっている、と発表している。

 ならばなぜトランプ信者は、間違った情報に踊らされるのか。

 まずは、右派系のネットメディアがデマを数本の記事にし、ホワイトハウスの報道官であるケイリー・マケナニーがその内容をツイッターに書き込み、それを受け、共和党全国委員会のロナ・マクダニエル委員長が記者会見を開くことで、トランプの勝利を信じたい人たちの心に染み込んでいくようになる。

 フランスの通信社『AFP』は11月7日、右派系のネットメディアが流した3本の間違った記事だけでも、フェイスブック上で、1.5万回シェアされており、ツイッター上では67万人にその記事が届いた、と書いている。

 これは後になって、ドミニオン社やスマートマティック社などの具体的な企業名とともに語られる、集計ソフトによる不正という陰謀論だ。

 ソフトウェアが投票を書き換えたという陰謀論が成り立たない理由は2つある。1つは、ソフトウェアを搭載した集計の機械は、インターネットの接続から遮断されており、外部の人間が遠隔で操作することはできないようになっていること。2つ目は、もし、集計ミスがあったとしても、有権者が書いた投票用紙を保存しているため、再集計することでミスを修正することができるからだ。

不正とは関係のない「告発ビデオ」

 集会で目を引いたのは、拳銃だけではなく、ライフル銃を持って参加している支持者が少なくないことだった。ミシガン州は、抜き身の銃を携帯することが許されているのだ。

 州都ランシングの南西にあるバトルクリークでバスの運転手をしているミッシェル・グレゴリー(29)と、同市の北にあるフリントでトラック・ドライバーをしているロブ・キニソン(38)は、ともに「AR-15」というライフル銃を携え、防弾チョッキも着込んでいた。これまでランシングなどで開かれたトランプ集会で何度も顔を合わせ、こういった集会では揉め事が起らないように見回りをする役目なのだという。

 グレゴリーに訊いてみた。

「何のために来たかって? 選挙ではどんな違法行為も許されないと思うからよ」

 ――とは言え、ライフル銃を持ってくる必要はありますか。

「私たちは、だれかを脅そうと思ってライフル銃を持ってきたわけじゃない。もし、意見の違う人同士で言い合いがはじまったりしたら、それを収めるのに銃があると便利だから。それに銃を持つことは、アメリカの憲法(修正第2条)でも認められている権利よ」

 ミシガンの選挙のどこに不正があった、と彼らは主張しているのだろう。

 キニソンはこう話す。

「ミシガン州北部の米郵政公社の職員が、郵便投票が投函された日付を改ざんさせられたって証言している映像があるじゃないか。あんなにはっきりとした選挙違反の証拠はないよ」

 これはジェームス・オキーフという札付きの右派系活動家が11月4日、ツイッターで流した映像だ。郵政公社の職員は顔を見せず、音声も変えて語る映像で、上司から、期限以降に到着した郵便投票の封筒の日付を選挙前日の11月2日として捺印し、有効な投票に改竄させられたと語るビデオである。10万回以上リツイートされ、合計の再生回数は1000万回を超すほど広く行き渡った。

 リツイートした1人に、トランプの息子も含まれている。「司法省はどこにいるんだ」というコメントを付けて。

 ビデオの中で、職員は遅れて届いた郵便投票の消印を選挙当日ではなく、前日の2日に変えて押すように命じられた、と語っている。

 しかし、ミシガン州で、有効となる郵便投票とは、選挙当日の午後8時までに開票所に届けられたかどうかということが基準であり、投函の日付は関係がなかった。つまり、ビデオ内容は不正投票とは何の関係もない、というのが事実であった。

「8645」の意味

 多種多様な根拠のない誹謗中傷がこれだけ出回っていると、多くの人にとって、どれが真実であるのかは重要ではなくなってくる。トランプ信者にとっては、自分たちが信じたい話、つまりトランプが選挙で負けたのは不正投票のせいだ、という話以外には興味を示さなくなる。

 その過激な主張とは裏腹に、集会は一見するとピクニックのようなのんきな雰囲気にも見えることもあった。しかし、彼らの主張に反対する人には牙をむき出しに向かっていくことがあった。

 11月14日午後のこと。

「ウソはやめろ」や共和党の文字の上に、鉤十字を書いたプラカードを持った60代の男性が演説会場近くに現れると、壇上から「そいつを、つまみ出せ!」と大声で罵る声が聞こえ、それに呼応した複数の参加者が、その男性を小突いたり、水を掛けたりした。

 警察に護衛され離れた場所に移ったその男性に、私は話を聞いた。

 自らはベトナム戦争に従軍し、父親は第2次世界大戦に従軍した退役軍人一家だと話し、トランプ支持者のやっていることを軍隊ごっこだ、と詰った。

「こんな場所に、ライフル銃を持ってくる意味なんてないんだ。奴らは、銃を見せびらかしたいだけなんだ。もう決着がついた選挙に、銃まで持ち出して抗議するのは愚の骨頂だ」

 と語った。

 彼がブーイングを受けたプラカードを掲げたところを、私が写真に撮ろうとすると、またしてもトランプ支持者たちと激しい口論がはじまった。「売国奴」や「恥知らず」という剥き出しの言葉が男性に投げつけられたとき、ライフルを持った支持者が作る自警団が、男性を“保護するため”に囲むと、物々しい雰囲気があたりに漂った。

 トランプは負けたと主張するグループもあり、その1人が「8645」という旗を持っていた。「45」とは、45代大統領のトランプを指すのだろう、とわかるが、「86」がわからない。旗を持っていた女性に意味を問えば、

「86とはレストラン業界の用語で、たとえば売り切れたからその商品をメニューから外せというときに使われる隠語なのよ。つまり8645とは、選挙で負けたトランプを取り除けっていう意味よ」

 その女性の話を聞き終わって歩き出そうとしたとき、トランプ支持者と思われる女性が声をかけてきた。あの86って何の意味か知っている、と。

「古いギャングの用語で、殺す、という意味なのよ。あの集団は、トランプ大統領の暗殺を狙っているの」

 それはウソだ、と瞬時に私は反論した。選挙に負けたトランプは、大統領職から去るのだから、そのトランプを殺す必要はない、と。

「それじゃ、彼らの本当の目的を見誤るわ。彼らがどれだけ狂暴かがわかってないのよ」

 うーん。

 トランプ支持者は、トランプ発のウソを信じるだけでなく、周りにウソもまき散らすのだろうか。

 いくつかの英和辞書を引くと、「(軽食堂で)品切れ」という意味もあれば、「殺す、バラす、消す」という意味も載っている。

 レストランで働いた経験のあるアメリカの大学時代の友人に訊いてみた。

「86には、取り除くとか品切れの意味があるけれど、殺すという意味があるのはまったく知らなかったわね。殺すという意味があるといった女性は、旗の意味を捻じ曲げようとしている気がするわ」

 とその友人は答えた。

 私も同感である。

「中国共産党」「ディープステート」による陰謀説も

 不正選挙の主張は10種類前後のパターンがあるのだが、それ以外の主張を繰り広げる人たちもいる。

 デトロイトから駆け付けた、金融業界で働くというニック・ラッセル(35)は、こう話す。

「トランプはミシガン州の選挙で勝利したが、CCPがそれを阻止したんだ」

 CCPって?

「中国共産党(Chinese Communist Party)のことだよ」

 はぁ……。

「開票日の夜、突然現れたバイデン票は、中国共産党が急いで印刷したものだ。習近平とジョー・バイデンが手を組んでトランプが負けるように仕組んだんだよ。バイデンの息子のハンターが、中国系企業の取締役を務めていて、2016年4月に南シナ海の島を中国共産党に売り渡すのに一役買っているんだよ」

 いろいろな疑問符が頭に浮かぶが、1つだけ訊いてみた。中国共産党はどこで投票用紙を印刷したのか、と。中国国内で印刷したのでは、開票日に間に合わない。

「アメリカ国内にも中国共産党の息のかかった印刷所がたくさんあるんだから、そんなのなんの問題もないさ」

 えぇ……。

 即座には判断できない内容も多かったので、連絡先を教えてほしい、とお願いした。

「ダメだ。オレたちのやり取りは、中国共産党に筒抜けになるから。こちらからあんたの名刺のメールアドレス宛に、情報源のリンクを送るよ」

 どこまで本気なのか?

 どれだけの能力を中国共産党は持っているというのか? 

 大統領選挙で、中国共産党が投票用紙を印刷したという話は、ネットで検索しても引っかかってこない。書き取った男性の名前と住所で検索しても、それらしい人物もヒットしない。彼からメールが送られてくることもなかった。

 しかし、中国共産党が陰で糸を引いていると主張するのは、彼1人ではなかった。

 ランシングから車で1時間離れたフリントから来たというマイク・ピニュースキー(52)は、

「いろんな公約を実現してきたトランプを110%支援する」

 と言い、

「この選挙は民主党と中国共産党によって盗まれた」

 と語る。

「民主党と中共(CCP)がグルになって、アメリカの行く手を阻んでいるのは明らかだよ。どこからの情報かって? YouTubeやFacebookで探せば、いくらでも情報は見つかる。共和党はディープステート(闇の政府)に支配されているんだ。それは、今に始まったことじゃない。(2001年に起きた)9.11の同時多発テロも、当時の政権が国民を支配しやすくするために仕組まれたんだ」

 ――当時は共和党政権で大統領はジョージ・ブッシュ(子)ですよね。

「そうさ、ブッシュもディープステートの一員だったし、トランプに散々たてついたジョン・マケイン(上院議員=2008年の共和党大統領候補、2018年没)も、同じだ。トランプはこの4年間、ディープステートという悪魔のような存在からアメリカを守るために戦ってきたし、その戦いはあと4年続くべきなんだ」

 話を文字にすると、この人は大丈夫かな、と感じる人もいるかもしれないが、しゃべっている本人はいたってまともに見える。たとえば、たまたま入ったバーで隣に座れば、雑談の1つを交わしてもおかしくないような感じだ。

重たい「置き土産」

 多種多様な人が主張するトランプの大統領選挙の勝利は、どのような形で決着するのか。

 この集会の主催者であるケビン・スキナー(34)は、連邦最高裁の判決まで待つとしながら、

「もし最高裁でもトランプ陣営の訴えが認められないのなら、武器を持って立ち上がるしかない。そんなことはオレたちだってしたくないさ。でも、民主主義を守るにはそれ以外の選択肢はないじゃないか」

 日程的には、12月14日の選挙人の投票が終わり、各州が選挙結果を確定した。トランプ陣営はその間、ミシガン州を含む各地で50件前後の訴訟を起こすが、そのほとんどで、不正の証拠を出すことができず敗訴している。

 今後は2021年1月6日、上下両院合同会議で、各州の選挙人の投票結果が認められ、1月20日に、バイデンが46代大統領として就任する。

 しかし、バイデンが大統領になることを認めないトランプ信者たちはどう行動するのか。トランプの置き土産となる、不正選挙という陰謀論は、この先も長くアメリカに影を落とすことになる。

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横田増生
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て米アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年よりフリーランスに。2017年、『週刊文春』に連載された「ユニクロ潜入一年」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞(後に単行本化)。著書に『アメリカ「対日感情」紀行』(情報センター出版局)、『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)、『仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(小学館)、『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)、『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)など多数。

Foresight 2021年1月6日掲載

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