有力選手が参加しない「レスリング全日本選手権」 アスリートファーストのツケ

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 レスリングの全日本選手権(天皇杯)が12月17~20日、駒沢体育館(東京都)で行われ、後半の二日間に駆け付けた。

 男子フリースタイル92キロ級に出場したベテラン高谷惣亮(ALSOK)の4階級にわたる10連覇、17歳の高校生、藤波朱理が元世界王者の奥野春菜(至学館大)を破って初優勝するなどそれなりに見どころはあった。とはいえ、川井(梨紗子 友香子)姉妹、乙黒(圭祐 拓斗)兄弟など、東京オリンピックの代表に内定している8選手中、出場したのは男子グレコローマン60キロ級の文田健一郎(ミキハウス)だけ。コロナ対策での「無観客」もあり寂しい印象だった。

「最も五輪金メダルに近い」とされる世界王者の文田は決勝で日体大の後輩、鈴木絢大 に得意の反り投げなどを仕掛けたが決まらず、相手の消極姿勢でもらった得点で辛勝するにとどまった。手の内を知られる相手とはいえ「あれでは五輪でメダルは取れない」(文田のライバルだった太田忍氏=現総合格闘技)など懸念も出ていた。

 文田は「出る資格があるなら絶対に出ようと思っていた。巻き投げを試したり、攻めを心掛けたが詰めきれないところなど課題も見つかった」と話した。「他の選手にももっと出てほしかったとは?」と筆者が尋ねると「選手によってやりかたは違うと思う。自分は出ることが東京へつながると思ったので出場したけど、ここで落としたら調整できないと思う選手もいると思うし……」などと話した。

 五輪の直前で怪我をしたくないというならスパーリング練習もできない。事実、五輪を決めている川井姉妹、須崎優衣らはアジア選手権(4月 カザフスタン)に出場する意思を告げているというから「五輪代表たちがけがを怖がっている」とは少し違うようだ。

 新型コロナで大会が次々中止されて試合勘が戻らない中、日本選手より外国勢と戦うことに価値を求めているのだろうが、それなら天皇杯にも出てほしかった。海外試合を重視し、国内最高の伝統大会はスキップしてしまったのか。文田は「海外で武者修行よりも国内で自分のやるべきことをきちっと見直したい」と話していた。

 1934年(昭和9年)から続く全日本選手権(天皇杯)、最近では一昨年の伊調馨vs.川井梨紗子の熱戦が注目された。毎年暮れに開催されるこの大会は、五輪イヤーの前年には代表を選ぶ重要な大会の一つだった。ところが、今回はコロナで順が逆転し、8人にとっては「決まった後」の全日本だった。決まっていない階級でも五輪代表を決める来春のアジア予選も(中国・西安市の予定がカザフスタンのアジア選手権と併合)既に派遣選手は決まっている。派遣選手の一人、男子フリー57キロ級で竹下雄登(日体大)に不覚を取り3位になった樋口黎は「今回は、次につながるものが何もないのでモチベーションが上がらなかったけど……」などと振り返っていた。

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