10年連続でトリをつとめた「美空ひばり」が“ヤクザ”で落選した日【NHK紅白裏面史】

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北島三郎と山本譲二も…

 1986年の第37回も暴力団問題で揺れた。御大・北島三郎(84)と北島ファミリーの山本譲二(70)が、85年の稲川会の新年会に招かれ、歌っていたことを、放送直前になって毎日新聞が報じたからだ。蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 北島と山本は放送3日前に出場を辞退。代役として鳥羽一郎(68)、角川博(67)が指名されたが、鳥羽は「自分も(暴力団と)関わったことがある」として、やはり出場を辞退した。

 音楽記者によると、鳥羽は義理人情に厚く、男気は歌謡界屈指とされる。黙っていれば暴力団との関わりは分からなかった可能性が高いが、それを潔しとしなかったようだ。鳥羽の代わりはシブガキ隊が務めた。

 当時は北島御大の動向に報道が集中したため、大きく報じられなかったが、NHKの姿勢に抗議し、放送当日に審査員を降りたのが演出家の故・蜷川幸雄さん。こんな声明を出した。

「NHKの出演辞退の要請による一連の推移は、私にあるおぞましさを感じさせます。たかが年末の芸能番組にすぎない『紅白』が、何故道徳的な神を演じなければならないのか。これは魔女狩りではないでしょうか」

 紅白が年末の芸能番組にすぎないかどうかは分からないが、少なくとも道徳を唱えられる立場でなかったのは間違いない。

 2004年、紅白や「思い出のメロディー」などの音楽番組を担当していたチーフプロデューサー(当時48)が、1995年から2001年の間に制作費約1億5000万円を着服(立件総額6220万円)していたことが発覚し、詐欺容疑で逮捕された。その後、起訴され、有罪判決を受けた。

 紅白などの番組構成費名目で制作費を不正に支出し、下請け業者に入金した後、キックバックさせていた。制作費の原資が受信料なのは言うまでもない。

 件のプロデューサーは紅白の取材で何度か見掛けた。短髪でセーター姿が多い、地味な外観の人だった。それだけに巨額着服には驚いた。

 紅白はトップ歌手たちの歌を楽しむ時間であると同時に、「紅白とは何か」を考える機会なのかも知れない。

※参考文献
「美空ひばり『涙の河』を越えて」(小西良太郎)女性自身2001年3月27日号、4月17日号
「女王・ひばりが号泣した夜」(矢島敦美)文藝春秋2007年6月号

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月30日掲載

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