「オウム平田信」6000日の逃亡劇 「警視庁追跡班」の「極秘ファイル」が明かす捜査の全貌

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「オウム独特の臭気」

 一方、追跡班の苦労の跡が窺えるのは、ファイルの中にある〈木村聡子の筆跡照合〉と題する資料だ。

 作成は01年。木村は〈山口今日子〉や〈橋本和子〉など10個ほどの偽名を駆使していたことが判っているが、それぞれ履歴書などに書き込まれた文字を照合しているのである。

〈(昭の文字については)第4画が外に飛び出している部分が類似している。(市の文字は)第1画の点が左側に寄り、第4画の部分が類似している〉

「文字だけでなく、履歴書に添付された写真も頭がおかしくなるくらいの数を見ました。残念ながら木村と平田に繋がるようなものはありませんでしたが」(前出・公安部関係者)

 こうした地を這うような捜査は実らず、関西地方にまで手を広げる前に追跡班が解散したのは前述した通り。それ以降は寄せられる情報を細々とつぶすだけで、昨年大晦日の出頭までただ無為に時が流れたのである。

「平田の出頭後、警察庁警備局は“17年間の足取りを洗い出せ”と大号令をかけました。その指示のもと、警視庁公安部公安第一課と公安総務課、それに大阪府警警備部が連携。大阪、奈良、和歌山などでローラー作戦を行っています」

 と、警察庁関係者。

「足取りが明らかになれば、未だに行方がわからない菊地直子や高橋克也に迫れるかもしれない。何より捜査陣の間では、オウム、麻原とは決別したという平田の現在の証言は嘘ではないか、との見方が根強い。真偽を見極めるためにも、足取りの解明は欠かせません」

 また、警視庁関係者も興味深い話を明かす。

「警察施設内で平田と接した捜査員によると、出頭直後の平田の体からはオウムの施設を捜索する際に嗅いだものと同じ、オウム独特の臭気が漂っていたというのです。これは、当局の監視対象にない極めて小規模なアジトに潜伏していたことを意味するのか。留意すべき点と考えています」

 あらゆる痕跡は消し去ったものの、臭いまでは拭えなかったということなのか。答えが明らかになるのは、平田がその身を潜めた闇の正体が判明した時である。(続く)

週刊新潮WEB取材班

2020年12月30日掲載

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