テーマは「女による女のためのドラマ」 2020年の良質な作品を振り返る

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いわば「亜種の朝ドラ」

●「MIU404」(TBS)

 星野源と綾野剛の刑事バディモノだが、上司役の麻生久美子がこのドラマに深みをもたせた。

 男社会の警察組織内で女に課される苦行と煩悶。正義の名のもとで無意識かつ日常的に行われている性差別に、きっちりとNOを叩きつけた麻生。

 男尊女卑のマッチョ思考が当たり前の刑事ドラマで、細やかな配慮ができる麻生の存在は心に刻まれた。第7話ゲストの美村里江も悶えるほどの好演。

●「妖怪シェアハウス」(テレ朝)

 自己評価が低く、男に騙され捨てられたヒロイン・小芝風花が、神社に住む妖怪たちに救われるファンタジーコメディ。

 人間の浅はかさを知りつくした妖怪たちが適度な距離で叱咤激励、人生指南する構図が面白かった。

 小芝が徐々に自信を身につけて、恋に仕事に邁進していく姿は、いわば「亜種の朝ドラ」。

 コミカルな妖怪大事典の様相だが、ひとりの女性の自立の物語だった。

●「すぐ死ぬんだから」(NHK BSプレミアム)

 下町で酒屋を営み、長男に継がせて隠居生活を送る仲良し夫婦。

 穏やかで人畜無害な夫が急死した後、隠し子がいるとわかり、心が千々に乱れるヒロインを三田佳子が演じた。

 隠し子は溝端淳平、その母は余貴美子。

 死別の悲しみをはるかに超える憎しみと憤りに遭遇したとき、はたして女の沽券はどうしてくれよう?

 地味だが「数々の女ドラマの終着駅」の味わいがあるコメディだった。

不倫モノと簡単にくくるべからず

●「荒ぶる季節の乙女どもよ。」(TBS系)

 多感な女子高生たちによる「青年の主張」が意外と面白かった。

 子供扱いされたかと思えば、意図せず汚れた大人の性的対象に見られたりもする女子高生たちの本懐を描く。

 何がいいって、女子高生5人が文芸部という設定で、それぞれが自分の言葉をもち、欲望に対しても確固たる主語があるという点だ。

 若手女優のみずみずしさ目当てで群がるおじさんと一緒にしないでほしい。

●「#リモラブ~普通の恋は邪道~」(日テレ)

 波瑠主演、マスク必須のコロナ禍の現実と地続きで描いたラブコメディ。

 人と人の距離が近い「密」が忌避されたら、どうやって出会うんだ? 濃厚接触が敬遠されたら、恋はどう進展するんだ? 

 そんな問いに真摯に応え、人が内面で抱える孤独と欲望にちゃんと向き合っていたドラマだ。

 純粋な「好き」という気持ちのやりとりだけでは展開しない厄介さと面倒くささにリアリティがあった。

●「恋する母たち」(TBS)

 思春期の息子をもつ母3人の恋模様を描いた挑戦的な恋愛ドラマ。

 思春期の息子ってのが実はこの作品の肝でもあり。いつまでも聖なる母では居続けられない、女の性と業を余すところなく描いた気もするので、不倫モノと簡単にくくるべからず。

 幸福な家庭を築いたように見えて、実際は母なる呪縛で自分を押し殺してきた女たちが、原点回帰と一念発起で「自分を再生する」物語。

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