1日4回の“ハシゴ会食” 批判されても菅総理が「会食」を止めなかった理由

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「信じられるのは自分の目と耳だけ」

 GoToトラベルの一時停止を打ち出した12月14日から3日間連続で夜の会食に顔を出し、猛烈に批判された菅義偉総理。支持率の急落もあり、その後は議員宿舎に直帰する“自粛”生活を送っているが、そもそも首相就任直後の9月18日以降、各界の有識者と会食するなど、精力的に予定をこなす人物として知られる。数十分から1時間程度の会食を、ときに“はしご”までしてこなすのはなぜなのだろうか。

 第一の理由は、「信じられるのは自分の目と耳だけ」というスタンスだ。

 自著『政治家の覚悟』には、政治の師と仰ぐ元官房長官の梶山静六が菅を諭した言葉として、次のような一節が紹介されている。

「官僚は説明の天才であるから、政治家はすぐに丸め込まれる。お前には、おれが学者、経済人、マスコミを紹介してやる。その人たちの意見を聞いた上で、官僚の説明を聞き、自分で判断できるようにしろ」

 政策を決める時には、官僚の言い分をうのみにせず、基本的には民間の関係者らから「セカンドオピニオン」を取る。この姿勢は、今に始まった話ではないようだ。『喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書』(読売新聞政治部・著)には具体的に記されている。

安倍政権の末期を実体験

「官房長官の時から朝昼夜問わず様々な人物と会食を重ね、幅広い知見の吸収に努めてきた。菅は酒を受け付けない体質である。そのため、会合を朝に1回、昼に1回、夜に2回重ねる『4階建て』も平気でこなすことができる。『はしご酒』にならず、翌日に響かないためだ。毎朝、新聞各紙に目を通した後、赤坂の議員宿舎周辺を散歩するのと同様に、菅の『ルーティンワーク』とも言える」

 第二の理由は、安倍政権の末期を実体験していたからだろう。安倍総理(当時)は緊急事態宣言の発令に伴い、6月18日まで3カ月間にわたって夜の会食を自粛した。その間、一斉休校に始まり、“アベノマスク”やSNS動画、現金給付の方針転換、緊急事態宣言の全国拡大など、打ち出した政策は結果的に官邸の求心力低下をもたらした。

総理は“孤独”

『喧嘩の流儀』によれば、安倍氏が会食の再開を決意したきっかけは、麻生太郎副総理の助言だったという。

「安倍抜きで政局が回り始め、盟友の麻生は危機感を募らせた。(6月)10日に首相執務室を訪ねると、『総理、最近明らかにアンテナが鈍ってますよ。判断がおかしい。気づいてますか。今、コロナで食事ができていないから、いろいろな情報が入らなくなってるんですよ』と直言した。夜の会食を約3カ月自粛していた安倍にも、思い当たるところがあったようだ。『それを面と向かって言ってくれたのは麻生さんだけです』と応じ、さっそく19日から再開する会食のトップバッターとして麻生を誘った。麻生はその会食に、菅と甘利も加えるよう逆提案した」

 総理は孤独だとよく言われる。党内基盤の薄い菅総理はなおさらだろう。ルーティンとしての会食には、情報収集以外に、精神安定剤の効果もあるのかもしれない。守り続けた流儀の封印は、今後のコロナ対策、政権運営に少なからず影響を及ぼすのではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年12月29日掲載

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