役へのこだわりから歯も抜いた それでも自分を臆病と言った「三國連太郎」

ペリー荻野  ペリーが出会った時代劇の100人 エンタメ 芸能 2020年12月24日掲載

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 ペリー荻野が出会った時代劇の100人。第4回は、三國連太郎(1923~2013年)だ。

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 迫力。三國連太郎という俳優には、出て来るだけで画面に圧力を感じさせるパワーがあった。

 プロフィールも、なかなかに迫力に満ちている。大正12(1923)年、群馬県に生まれ、14歳のときに密航で大陸に渡って各地を放浪。その後、召集され、中国に出征。終戦後は、さまざまな仕事をしていたが、27歳のときに銀座でスカウトされて映画界へ。

 昭和26(1951)年、木下恵介監督の「善魔」(松竹)で主演デビュー。そのときの役名が芸名となった。内田吐夢監督の「飢餓海峡」(65年・東映)、勅使河原宏監督の「利休」(89年・松竹)など、名監督の話題作での鬼気迫る演技で多くの映画賞を獲得。自身が監督した「親鸞 白い道」(87年・松竹)ではカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した。また、昭和63(1988)年に始まった喜劇映画「釣りバカ日誌」シリーズ(松竹)では、釣り好き社長スーさんとして釣りバカ社員ハマちゃん(西田敏行)との名コンビでも知られた。私生活では、4度結婚。3度目の結婚時に俳優の佐藤浩市が生まれている。女優・太地喜和子との恋愛が世間を騒がせたこともあった。

 私が初めて「三国連太郎」の名前(番組のクレジットは三国)を知ったのは、昭和52(1977)年の時代劇「ご存知!女ねずみ小僧」(フジテレビ)だった。このドラマの三國は、昼は常磐津の師匠、夜は悪人屋敷に忍び込む“女ねずみ”の主人公お京(小川眞由美)を助ける“男ねずみ”浮右衛門。お京に惚れているのに、いつもさらっとかわされる。結構なおとぼけモードで、こどもの私は浮右衛門を笑いながら見ていた。フジテレビ「月9」の時間帯にこんな色っぽい女ねずみと強面の男ねずみが屋根の上にいた時代もあったのだ。それだけに後年、映画でシリアスな役を演じてきた「三國連太郎」について改めて知った時は、衝撃を受けた。

 三國時代劇映画で私の中で強く印象に残るのが、「戦国無頼」(52年・東宝)と「切腹」(62年・松竹)、それと「新選組」(69年・東宝)だ。

「戦国無頼」は、織田信長の大軍に包囲され、落城寸前の小谷城にいた浅井長政の家臣・佐々疾風之介(三船敏郎)、立花十郎太(三國連太郎)、鏡弥平次(市川段四郎)の運命を描く。疾風之介は、腰元の加乃(浅茅しのぶ)と再会の約束をし、城を脱出する十郎太に彼女を託す。その後、野武士の大将の娘おりょう(山口淑子)に拾われた疾風之介は、惚れられ、恨まれる。恋しい相手を追い求める人間の複雑にして、ドラマチックな展開。原作の井上靖が、登場人物が死ぬ場面を書いたとき「可笑しな話だが、どうにかして助ける方法はないものかと考えた」というほどに愛着持った小説を、稲垣浩・黒澤明が共同で脚色、稲垣が監督した。戦国の無名の武士の苦悩を演じる三國連太郎が心に残る。

 一方、「切腹」は、寛永7年の話。江戸の井伊家門前に芸州・福島家の元家臣・津雲半四郎(仲代達矢)と名乗る浪人が現れ、玄関先を借りて切腹したいと申し出る。井伊家家老・斎藤勘解由(三國連太郎)は、過日、同様の申し出をした同じく福島家浪人・千々岩求女(石浜朗)の話を始める。困窮の中で生きるしかない浪人の苦しみを訴える半四郎を冷たい目で見ながら、勘解由は「世迷言はそれだけか」と突き放す。滝口康彦の小説「異聞浪人記」を橋本忍が脚色。監督・小林正樹、音楽・武満徹のモノクロ作品。仲代VS.三國の目力対決はすごかった。武家社会の虚飾を描いた異色作としてカンヌ国際映画祭審査員特別賞など国内外で高く評価されたというのも納得だ。

「新選組」は、三船プロの製作で監督は沢島忠。三國は近藤勇(三船敏郎)、土方歳三(小林桂樹)、沖田総司(北大路欣也)らと対立する芹沢鴨役。乱暴者の芹沢は、豪雨の夜、妾(野川由美子)と寝所にいたところを近藤らに急襲され、暗殺される。この映画から35年後、大河ドラマ「新選組!」(2004年・NHK)で佐藤浩市が芹沢を演じて話題になった。

 お話を聞く機会を得たのは、80歳になられたころだった。日本映画界の重鎮であることだけでなく、34歳で映画「異母兄弟」(57年・独立映画)に出演する際には、健康な歯を抜いて老人の役作りをしたエピソードなども有名だったので、私は緊張気味だったが、目の前に現れたご本人はとても穏やか。「スーさん」そのものだった。

 意外だったのは、自分を臆病だと言われたこと。臆病だから、いい監督といい仕事をしたいと思ってきた。いいシーンが撮れるまで20回でも30回でもやり直す。役へのこだわりもその気持ちの表れで、常に自分に何ができるかを考え続ける。そのためには歯を抜くくらいは当然のことで、監督もそれほど驚かなかったという話にびっくりしている私に「そんなに驚かなくていいですよ」と笑顔だった。

 晩年の出演作で素敵だなと思ったのは、中村吉右衛門主演の「鬼平犯科帳スペシャル 一寸の虫」(2011年・フジテレビ)の大盗賊・船影の忠兵衛。長年、人を傷つけず盗み働きをしてきた忠兵衛は、長谷川平蔵(吉右衛門)率いる火付盗賊改方に取り囲まれたとき、歯向かおうとする手下を押しとどめ、「恐れ入りましてございます」と観念する。取り調べで、久しく江戸を離れていた理由を聞かれ、「江戸には鬼がいるから……あっしは人一倍臆病でございますから」と語るのだ。

 慣れあうことを嫌う方と聞いていたが、どの作品も多くの人の協力があってできることを忘れないため、自分の台本の1ページ目にはいつも「和」の文字を書いたという。「まだまだ役の幅を広げたい」という言葉に、私の背もシャキっと伸びたのだった。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

週刊新潮WEB取材班編集