“選手に罰走”で賛否…巨人「阿部慎之助」の旧態依然とした指導法は問題か

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 日本シリーズでは、2年連続でソフトバンクに4連敗を喫した巨人。セ・リーグ連覇を達成しながら首脳陣への批判すら出る状況となっているが、さらに気になるのが原辰徳監督の“後任問題”である。

 2001年の長嶋茂雄監督の退任以降、9度のリーグ優勝は全て原政権。「巨人=原巨人」という状態が20年ちかくも続いている。原監督の後任として最有力とみられているのが、2019年限りで現役を引退し、今年から二軍監督を務めている阿部慎之助だが、この1年の言動や指導方針を見る限り、とても万全とは思えない。

 最初に阿部の指導法が問題となったのが3月のプロ・アマ交流戦でのこと。早稲田大を相手に6対9で敗れると、試合後には全選手に両翼のポール間を走るメニューを課したのだ。この“罰走”に対して、ファンのみならずトレーニングの専門家からも否定的なコメントが寄せられた。また、ダルビッシュ有(カブス)が自身のTwitterで「2005年にはすでに日本ハムには無駄なランニングがなかった」と反応。“罰走”がいかに古いやり方かということが話題となった。

 このような騒動が起きながらも、阿部二軍監督の方針は変わらなかった。11月のフェニックスリーグでは、先発で1回7失点を喫した太田龍と二番手で2回2失点だった堀岡隼人に対して、試合中に球場外のランニングを課した。12月11日に行われたトークイベントでは、阿部二軍監督は「二軍に来たくないと思わせるくらい、また罰走をバンバンやらせて、ダルビッシュ君にチクチクと言わして、賛否両論になればと思います」とも発言している。

 このやりとりを見てまず感じることは、阿部二軍監督の“指導法の古さ”である。本人は、選手に奮起を促す意味で、このような指導、発言をしているのかもしれないが、何かミスや不甲斐ないプレーをすれば苦しい罰が待っている、だから二軍に落ちないように頑張るという思考で、果たして選手がやる気になるのだろうか。

 何か物事に対する動機付けについては「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があり、前者は報酬や罰によって選手を動かそうとするもの、後者は選手のやりがいや達成感に訴えかけるものであるが、継続して効果を発揮するのは後者であることは既に常識となっている。

 罰走や“人参作戦”などと言われる「外発的動機づけ」は短期的には効果があると言われているが、育成が重視される二軍監督という立場であればそのような手法が適していないことは明らかだろう。

 阿部二軍監督は現役時代にも、2012年の日本シリーズで制球が定まらず、サインを見落とした沢村拓一の頭をマウンド上で叩いたことがあった。この後、沢村が立ち直ったため、美談のように扱われているが、このやり方も本来であればもっと非難されてもおかしくない。

「飴とムチ」という言葉があるように指導する場面においては、どうしても“叱る”という行為が必要になることもあるが、叱る時は1対1で他者がいない時に、褒める時は大勢の前で行うことでより効果が高くなる。沢村がいくら同じ大学の後輩であっても、高いプライドを持っているプロ野球選手を相手に、大観衆の前で頭を叩くという行為は、指導の基本から外れた行為と言わざるを得ない。

 コーチングについて専門的に学んでいる指導者であれば、このような話は常識であるが、一連の報道を見ていると、阿部二軍監督がそこから外れていることは明らかだ。日本シリーズで巨人をねじ伏せたソフトバンクでは、選手が引退してすぐコーチに就任させず、現場とは違うポジションに就かせることを徹底させているとされる。これは指導者としての勉強をするうえで、非常に合理的な考え方だ。この点でも巨人とソフトバンクの差は大きいと言えるだろう。

 阿部二軍監督のやり方は、巨人だけではなく、日本の野球界に古くからはびこっているものだが、トッププロで旧態依然とした指導が行われていることは大きな問題であることは間違いない。球界の盟主として、再び強い巨人を取り戻すためにも、指導者に対する球団としての考え方も改めて見直す必要がありそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月20日掲載

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