世界で勝てるグローバル・メドテック企業へ――竹内康雄(オリンパス取締役 代表執行役社長兼CEO)

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 日本のモノ作りの衰退が叫ばれて久しい。その中にあって、オリンパスは独自に発展させた消化器内視鏡が世界シェアの7割を占めている。圧倒的強さの秘密はどこにあるのか。年内いっぱいでカメラ事業から撤退、医療機器メーカーとして更なる発展を企図する老舗企業のグローバル戦略。

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佐藤 小学生の頃、我が家のカメラはオリンパス・ペンでした。一般のフィルムの半分のサイズで撮れるので、フィルムの節約ができると両親が愛用していました。

竹内 ハーフサイズカメラですね。

佐藤 そうです。固定焦点、自動露出で誰でも簡単に撮れる画期的なカメラでした。その後は私がもらい受け、大学時代まで使っていました。ですから我が家の写真のほとんどは、オリンパスのカメラで撮ったものです。

竹内 ありがとうございます。ほんとうに多くのお客様にご愛用いただいたと思っています。

佐藤 一世を風靡するシリーズもあったカメラ事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡し、年内いっぱいでカメラから撤退することになりました。これは経営者として非常に大きな決断だったと思います。

竹内 近年のカメラ事業の厳しい業績から、その改革が課題であるという認識はずっとありました。できれば事業から撤退することは避けたかった。ですが、事業ポートフォリオを見直す中で、中長期的にカメラを含む映像事業を良い方向に導いてくれる会社に託すことにしました。

佐藤 カメラ事業はどこも大変です。スマートフォンの普及と高機能化が極めて大きな影響を与えている。今回、同時に譲渡されるICレコーダーもスマートフォンの機能に入っています。

竹内 弊社のカメラ事業には「マイクロフォーサーズ」というユニークな技術があります。レンズ交換式デジタルカメラの規格で、これによってレンズの小型化や軽量化が可能になります。ですから、やりようによってはまだまだポテンシャルはある。ただ将来に向けて、そこを弊社で発展させていくのか、ベストパートナーを探して託すかを考えて、最終的に後者を選びました。

佐藤 長年カメラに関わり、研究開発してきた社員たちは、もっとやれるという気持ちを抱いていると思います。一方で、カメラが以前のようには売れなくなっている現実がある。まさにここは経営者の決断力が問われるところです。

竹内 弊社はモノを起点とする会社で、モノを開発・製造し、モノを売って発展してきました。ただ、テクノロジー・オリエンテッドでやってきただけに、会社の構造がサイロ化(それぞれの分野が独自に業務を遂行)していました。ある事業に関わっている人は、他の事業で何が起きているかをまるで知らないし、関係しなくてもよかった。だからそれぞれの事業のシナジー(相乗効果)が考えられていませんでした。

佐藤 カメラ部門はカメラのことだけを考えていればよかったわけですね。

竹内 それぞれの事業がうまくいっていれば、それでよかったのです。それに一時期まではいいものを作っていれば売れました。ただ、それは非常にラッキーな歴史だと思うのです。

佐藤 確かにそういう面はありますね。そこに安住していたから、日本の製造業の多くが立ち行かなくなりました。

竹内 また親方日の丸的な考え方が長らく続き、海外のビジネスに真剣に向き合ってきませんでした。例えば、アメリカとヨーロッパのベストプラクティス(最大効率の方法)を共有することを考えもしなかった。私は海外の駐在が長かったのですが、外から見ていて、もどかしくてしかたなかったですね。

佐藤 竹内さんは約16年間、海外勤務をされたと聞きました。だから、会社が他の社員とは違って見えていたのですね。

竹内 弊社はもっと世の中に貢献できるチャンスがたくさんあると強く感じていました。そこへ9年前に発覚した粉飾決算事件で、英国駐在から呼び戻され、経営陣の一員になりました。その時から、改めてこの会社は何の会社であるかを真剣に考えるようになりました。

佐藤 その蓄積があったから、昨年4月に社長に就任されるや、事業の見直しや組織改革など、次々に改革を打ち出すことができたわけですね。

竹内 カメラは民生用の事業ですし、広告も出しますから、一般の方には一番馴染みのある事業になります。ただ、いまは内視鏡事業や治療機器事業が売り上げの80%以上を占めています。当然、医療機器事業が中心になりますし、社会貢献という意味でも重要です。そこで「選択と集中」を行い、会社を「真のグローバル・メドテック企業」にすることを目標に掲げました。

佐藤 消化器内視鏡はシェアが世界の7割です。これはすごい数字です。

竹内 そのポジションを強化し、さらには今後、治療機器事業へ力を注ぎ、拡大を図っていくつもりです。

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