「公捜処」という秘密兵器で身を守る文在寅 法治破壊の韓国は李朝以来の党争に

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新型肺炎、初の1000人超え

――左右に妥協の余地はない?

鈴置:ないと思います。2022年5月の大統領選挙まで1年間半を切りました。韓国は「生きるか死ぬか」の政治の季節に入ります。今後、あらゆることが争いの種となって衝突が日常化するでしょう。

 韓国も日本同様、新型肺炎の第3波に襲われています。12月12日午前零時現在の1日の新型肺炎の感染確認者数は950人と過去最高を記録。

 翌13日にはそれが1000人を超えて1030人にのぼりました。14日は718人でしたが、日曜日明けの発表なので少なめに出ている可能性が高い。

 文在寅大統領は状況を完全に見誤っていました。12月9日、「政府の防疫能力を信じて欲しい」「長いトンネルの出口が見える」と国民に楽観論を語っていたのです。

 感染者数が史上最高を記録した12月12日、朝鮮日報は「文は3日前にはトンネルの出口が見えると言ったが、今や『コロナ非常事態』」(韓国語版)と政権攻撃に出ました。

 決定的にこの政権の足をすくうことになりそうな失態が、ワクチンをちゃんと手当てしなかったことです。

 韓国政府は12月8日、「国際機構経由の1000万人分のほかに、海外の製薬会社と直接契約し3400万人分のワクチンを確保した」と発表しました。韓国の全人口は5178万人(2019年)ですから、約85%の国民にワクチンを接種できると約束したのです。

 しかし、ファイザー製(1000万人分)とモデルナ製(同)、それにヤンセンファーマ製(400万人分)はいつまでに輸入できるか、約束を取り付けていません。専門家は「世界中の国がメーカーに殺到し在庫が不足する今、時期不明では意味がない」と酷評しています。

 アストラゼネカ製(1000万人分)だけは2021年第1四半期に輸入できる契約ですが、同社の臨床試験が思うように進まないため、実用化が予定よりも遅れるとの見方が増えています。

 中央日報は「<ユン・ソクマンのニュースの嘘>K防疫を自画自賛する政府が語らぬ秘密」(12月12日、韓国語版、動画付き)で、こうした事実を指摘したうえ「世界から称賛されていると文在寅政権が誇る韓国の防疫体制は日本にも劣る」と嘲笑しました。

日本にも流れ弾

――日本よりも劣る、と言われては……。

鈴置:韓国式防疫――K防疫で日本に勝った、と快哉を叫んでいた韓国人にとって、さぞ腹立たしい指摘でしょう。今後の流行次第では、政府への不信感が燃え上がるでしょう。

 新型肺炎だけではありません。韓国の社会構造はどんどん不安定になっています。1987年の民主化でいったんは図られた左右の間の妥協が、貧富格差の拡大で崩れたからです。

 左派が「1987年の不完全な民主化」という言葉を常用するようになっています。まだ、革命が足りない、との主張です。

 外交面でも米国との同盟をとるのか、中国側に行くのか、あるいは北朝鮮という同民族国家との融和に賭けるのか――の選択が浮上しており、国内対立を加速すると思われます。

 繰り返しになりますが注意すべきは、これまでとはケタ違いの激しい内紛が韓国で起きる可能性が出てきたことです。流れ弾が日本にも飛んでくることも覚悟した方がよさそうです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月14日掲載

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