「文在寅」急速な「日韓融和」の裏戦略 米国への“媚び”、南北関係の進展が狙い

国際 韓国・北朝鮮

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4首脳会談!?

 続けて、『悪韓論』(新潮新書)の著者で元時事通信ソウル特派員の室谷克実氏も同様に、

「同盟国重視のバイデン氏を意識し、韓国としては自分たちから動いて日韓関係を改善しようとしたという言い訳を作っておきたい。そうすれば、何かあった時に米国に韓国の味方をしてもらえると算段しているのでしょう」

 とした上で、韓国の「本心」をこう読み解く。

「何かあった時――それはいわゆる徴用工問題における、日本企業の資産の現金化です。12月30日にも、日本企業(三菱重工)の資産差し押さえ命令の決定が通知される見込みですが、いざ現金化が始まってしまったとしても、我々は関係を改善しようとしたのに乗ってこなかったのは日本のほうである、とエクスキューズできるように下準備を始めているんです」

 それはすなわち、「本気」で両国の関係改善を目指しているのではないことを意味する。日韓融和はあくまで「ポーズ」に過ぎないわけだ。

 そのポーズの背後には、対米エクスキューズのほかにもうひとつ、文政権の思惑が隠されているという。

 李教授が続ける。

「文政権にとって対北融和政策は『一丁目一番地』ですが、今年6月、南北共同連絡事務所が北朝鮮によって爆破されて以降、全く話は進んでいません。そのため、日本との関係改善を南北対話再開の突破口にしようとしているんです」

 一体なぜ、日韓関係が良くなると、南北関係も進展するという論法になるのか。

「文政権は東京五輪を利用しようと考えているんです。事実、国家情報院の朴院長は菅総理と会った際に、東京五輪に北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)委員長を呼び、日米南北4カ国の首脳での会談を提案しています」(同)

 この4首脳会談提案に関しては韓国メディアも報じているが、

「もし、この劇的な4首脳会談が実現すれば、文大統領の外交成果として、韓国内で最大限に評価されることになるでしょう。文大統領はそれを狙っているんです。というのも、2018年2月、韓国で行われた平昌(ピョンチャン)五輪で、文大統領は北朝鮮の大規模使節団を招くことに成功し、これをきっかけに板門店での南北首脳会談や、2度にわたる米朝首脳会談につながっていきました。つまり文大統領は、『平昌の夢再び』と目論んでいるんです」(同)

 冷静に考えれば、「暗殺の危険さえある金正恩訪日計画が、そう簡単に実現するとは思えない」(室谷氏)が、それでも文大統領は真剣だという。その証拠に、

「4首脳会談が開かれれば、その場で核問題や日本人拉致の問題も議題にあげるとまで、韓国側は菅総理に持ち掛けています」(李教授)

 万万が一、金正恩氏が来日するのであれば、日本側はすでに安倍晋三前総理が無条件での首脳会談を呼び掛け、菅総理は前政権を継承している。つまり今、ボールは北朝鮮にあるのだから、拉致問題解決に向けた「手土産」の持参は必要不可欠の条件であろう。

 兎(と)にも角(かく)にも、文大統領の本気度は、4首脳会談を持ち掛けた人物の「肩書」にも見て取れるという。

 朝鮮半島問題を長年取材している元朝日放送プロデューサーでジャーナリストの石高健次氏が解説する。

「菅総理のもとに派遣されたのは、諜報機関である国家情報院の朴院長です。国情院といえば、その最大の任務のひとつは北朝鮮のスパイの取り締まり。ところが文政権になって国情院の捜査権を警察に移譲すべく働きかけており、事実上それは実現したともいわれます。つまり、文政権はスパイを捕まえるどころか、これまで以上に『好きなように我が国で動き回ってくれ』というメッセージを送り続けているわけです。その国情院のトップが菅総理との会談で、東京五輪に金正恩委員長を招くよう提案したようです。韓国の真の狙いは日韓関係の改善ではなく、平昌五輪で生まれた南北融和の再現でしょう」

 表面上は日韓融和を装いつつ、実際はそれを踏み台にして、文大統領は「歪んだ北朝鮮愛」を実現しようとしているのだ。文氏の「偏愛」に利用されようとしている日本。これを屈辱と言わずして何と言おうか。

徴用工問題で「妥協案」

 このように日本を、東京五輪を、南北融和の舞台装置に使おうという狂気じみた戦略を実現するために、韓国側は日本に「エサ」まで用意しているのだ。

 ある韓国ウォッチャーが説明する。

「文政権与党側は、徴用工問題の解決案として、日韓双方の企業などから寄付金を集め、それを元徴用工などに事実上の賠償金として支払う案を検討しています。この案であれば、日本政府が直接関与することにならないので、メンツを保てるだろうというわけです」

 つまるところは徴用工問題解決のための「妥協案」だが、どうにもこうにも既視感が拭えない。そう、2015年の慰安婦問題における日韓合意である。

 この時も財団法人を設立し、そこを通じて慰安婦に10億円の金を支払うという「妥協案」がとられ、それを受け入れることで日本は「最終的かつ不可逆的な解決」という成果を得たはずだった。

 ところが文政権に代わった18年、韓国によって一方的に日韓合意は破棄され、未だに両国関係に大きな影を落としている。要は、韓国の「十八番」である「ムービング・ゴールポスト」が繰り返されたのである。

 したがって今回も、徴用工問題で日本側が「妥協案」に乗ってしまえばどうなるかは……。

 拓殖大学の呉善花教授が、

「徴用工問題解決に関する韓国側の提案に、日本は絶対に乗ってはいけません。ゴールポストを動かすのは韓国の常套手段なのですから」

 と警鐘を鳴らすように、識者たちは当然、異口同音にこう指摘するのだった。

「徴用工問題においてもゴールポストが動かされるのは火を見るよりも明らか」(李教授)

「韓国によるいかなる融和提案も日本は無視するしかない。ゴールポストは必ず動かされます」(室谷氏)

 にも拘(かかわ)らず、相も変わらぬ「あの新聞」は、

〈徴用工問題 協議加速し危機回避を〉

 と題して、こう主張している。

〈両政府はこれ以上、関係をこじらせないよう、危機感をもって協議を加速させねばならない〉

〈韓国では年内に、日中韓首脳会談を開く準備が進められている。だが日本政府内では、徴用工問題の進展がない限り、出席は難しいとの意見がある。(中略)日中韓の今後を考える大局的な首脳会談を滞らせることがあってはならない〉(いずれも11月4日付朝日新聞社説より)

 文政権をアシストしたいのかもしれないが、ゴールポストは常に動き続ける。ゆえにゴールは永遠に決まらない。ゴールなきアシストという虚しき下働き……。

週刊新潮 2020年12月10日号掲載

特集「『朝日新聞』がアシスト! 『文在寅』日韓融和の裏戦略は東京五輪『金正恩』訪日」より

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