ダルも異例のツイート…「中日」“ビジョンなき球団”の契約更改から見える大問題

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 この時期のプロ野球界の話題と言えば、選手の契約更改だが、ここ数年“良くない意味”で注目を集めている球団がある。今年8年ぶりにAクラス入りを果たした中日だ。

 昨年は、中継ぎとして44試合に登板して防御率3点台前半とまずまずの成績を残した祖父江大輔にダウン提示を行い、加藤宏幸球団代表からは継続した登板数の評価を求めるのであれば、FA権を取得してから主張するように、との発言があったと報じられた。これに対して、ダルビッシュ有(カブス)が中日の査定に疑問を呈する発言をツイートして、大きな話題となった。

 祖父江は今シーズン、最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得するなど、昨年を上回る大活躍で、このオフに倍増となる年俸7000万円(推定)で契約を更改した。その一方で、木下拓哉、福谷浩司、福敬登といったAクラス入りの原動力になった選手たちがいずれも契約更改を保留している(12月4日現在)。さらに、査定方法に関する説明や、交渉後の加藤球団代表のメディア対応に問題があるとして、プロ野球選手会が中日球団に抗議文を送る事態にも発展してしまった。

 ゴタゴタが続いた中日だが、前述した保留した選手以外にも、確かに疑問に感じる契約更改は少なくない。今シーズン、チーム2位の安打数と、自身初となる打率3割をマークした高橋周平は、予定時間を大きく上回る交渉の末、2000万円増の推定年俸8000万円で渋々サインした。また、ドラフト1位ルーキーの石川昂弥にいたっては、二軍で中軸として結果を残して、一軍でも8安打を放ったにもかかわらず、25万円減の推定年俸1275万円で契約を更改している。石川のダウンの理由について、加藤球団代表は「即戦力としての契約だったため」とコメントしているが、高校卒1年目の野手に即戦力となることを求めていること自体が通常ではありえないことである。

 こうした事例は初めてのことではない。同じく高校卒ドラフト1位野手の根尾昂は、昨年のオフに200万円減の推定年俸1300万円で契約を更改しているのだ(今オフは200万円減の推定年俸1100万円で契約更改)。同じくドラフト1位の藤原恭大(ロッテ)は、1年目の成績は一軍で2安打、二軍での成績は根尾と変わらずに、今年の石川と比べても低かったが、年俸は現状維持だった。高校卒1年目の選手としては、藤原の評価が妥当だと考える人が大半ではないだろうか。

 しかし、中日の問題はこのような厳しい査定だけではない。実績のある選手に対しては非常に甘いケースも散見されるのだ。今年結果を残せなかったにもかかわらず、ダウンを免れた選手をピックアップしてみると、以下のようになる。

平田良介(1億8000万円):55試合 39安打3本塁打17打点0盗塁 打率.235
大野奨太(7450万円):一軍出場なし
藤井淳志(4200万円):一軍出場なし
堂上直倫(3000万円):43試合 10安打0本塁打4打点0盗塁 打率.200
※いずれも年俸は推定。

 この4人はいずれも複数年契約のため、年俸は変動しなかったと見られている。これは査定とは別の問題と言えるが、彼らの年俸分を確保するために、実績のない選手が割を食っていることは大いに考えられることだ。まるで、戦力にならない年長者に高額のサラリーを払い続けたことが経営を圧迫する“前時代的な日本企業”を見ているようであり、実力の世界と言われるプロ野球界からはかけ離れている。

 今年は例年の143試合が120試合に減少。観客数にも制限がかかったことから各球団の収益が悪化しており、契約更改にその影響が出てくることは予想できた。ただ、それを十分考慮しても、中日の対応に問題があることは明らか。複数年の大型契約を結んだ選手が十分な働きを見せていない点を見ても、投資すべきポイントを誤っている。

 契約更改の場で、福谷から球団のビジョンを問われて、球団側が「今までそういうものがなかった」と回答したことが大きな話題となっていたが、“ビジョンなき球団経営”がこのような事態を招いたとも考えられる。7年間続いたBクラスからようやく脱出した中日だが、解決すべき問題はまだまだ山積みと言えそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月7日掲載

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