中条あやみ「閻魔堂沙羅の推理奇譚」が評価される理由、1時間ドラマも見習ったら?

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 10月以降に始まった秋ドラマは全体的に不振。その理由の1つは無駄に長いドラマが多いからではないか。その点、NHKの「よるドラ 閻魔堂沙羅の推理奇譚」(土曜午後11時半)はコンパクトな30分ドラマながら、本格的なミステリーに仕上がっている。

 ドラマが無駄に長く見えてしまう最大の理由は、余計なセリフやシーンがあるから。その代表格は「危険なビーナス」(TBS)の“妄想”だろう。

 主人公の手島伯朗(妻夫木聡、39)が急にモテたり、ピンチに立たされたりするシーンが何の前触れもなく流れる。妄想と分かるのは後になってからなので、肩すかしを食わされる形の視聴者の間では評判が良くない。

 対照的なのが、中条あやみ(23)主演の「閻魔堂沙羅の推理奇譚」。やはりミステリーなのだが、無駄が一切感じられない。

 30分ドラマである上、基本的には1話完結方式なので、そもそも余計なセリフやシーンを入れる時間などないだろう。それでいて物足りない気分にはさせず、見応えがある。

 ご覧になったことのない人のために説明すると、このドラマでは毎回、違う人物が殺される。その人物は自分の生き返りを賭けて、殺した犯人と動機の推理を行う。

 それは「死者復活・謎解き推理ゲーム」で、主宰者は閻魔大王の娘・沙羅(中条)。本来は死者が天国に行くか、地獄に落ちるかを決める立場なのだが、殺された人物が善人の場合、生還へのチャンスであるこのゲームをやらせる。自分を殺した犯人と動機を言い当てたら、死を帳消しにする。

 沙羅にはSっ気があり、生意気この上ない娘であるものの、心根は優しい。自分には非がないのに殺された者は何とか生き返らせたいのだ。推理に役立つヒントを与えてくれることもある。

 11月5日放送分の第2回で殺されたのは貧しい女子高生・向井由芽(乃木坂46の賀喜遥香、19)だった。由芽は懸命にアルバイトをして、やっと念願のスマホが持てそうだった時に殺されたこともあり、沙羅に向かって「まだ死にたくない」と訴える。

 沙羅はゲームのチャンスを与え、由芽の推理が始まった。ここからは由芽の回想シーンとなる。ほかの回も同じで、殺された人物が自分の行動や人間関係を振り返る。

 殺される前、誰と何を話したか。どんなことをしたか。それが回想シーンとして流れるから、視聴者も一緒に推理が楽しめる。最近では極めて珍しい王道のミステリーなのだ。

 どの回の犯人も納得できる人物で、動機や手口にも矛盾はない。視聴率獲得のため、予想を裏切る展開にすることを第一に考えるような悪しきミステリーとは違う。視聴者側が「おいおい、コイツが犯人かよ」と、あきれるようなことはない。

 由芽の場合、思い当たる疑わしい人物が何人かいた。保護者と不倫している担任教師や自分を恋仇と誤解しているクラスメイト、由芽を「貧乏人」といじめたことによってクラスで浮いてしまい、不登校になった男子…。

 犯人は不登校になった男子だった。逆恨みだ。また、担任教師と不倫しているのが自分の母親だったため、この教師も恨み、殺人の濡れ衣を着せようとした。それを言い当てた由芽は晴れて生き返る。

 ここまでの内容を30分で描けてしまうのだから、やはり現在の1時間ドラマの中には無駄に長いものがある気がしてならない。

 その上、このドラマは推理だけでは終わらない。骨太のメッセージも織り込まれている。

 由芽が沙羅に対し、「どうして自分に生き返るチャンスを与えてくれたのか」と問うと、こんな答えが返って来た。

「あなたは貧しい家庭環境の中、自分の境遇を嘆くことも卑下することもなく、強く懸命に生きている。最近、現世では外部の責任にばかり目を向けようとする輩がいるでしょう。『親ガチャ』にハズレたからといって。そういう人間はどんなに恵まれた環境に生まれたからといって文句を言うでしょう」

 ちなみに「親ガチャ」とは何かというと、子供の立場からは親を選べない、どんな境遇に生まれてくるかは運次第ということ。カプセル玩具の自動販売機やスマホのソーシャルゲームのガチャでは何が出てくるか分からないが、それになぞらえた俗語である。

 短時間ながら中身が濃く、示唆に富むドラマなのだ。

 11月28日放送の第5回で殺されたのは、ゆすり屋(R-指定、29)。善人でなかったため、犯人と動機を言い当てたが、生き返れなかった。犯人は自分が殺そうと思っていた相棒。裏切る前に裏切られた。イソップ寓話風の物語だった。

 ドラマや映画の良し悪しを決めるのは、1に脚本、2に役者、3に演出と古くから言われている。アメリカの名監督、名脚本家の故ビリー・ワイルダーは「作品の8割は脚本で決まる」と言い残した。

 となると、現在のドラマ不振の理由の多くも脚本にあるはず。まず脚本から余計なセリフとシーンを削ぎ落とすべきではないか。9月に終了した空前のヒット作「半沢直樹」(TBS)は手に汗握るシーンの連続だった。やはりヒットした「私の家政夫ナギサさん」(同)も笑いと感動に満ち、片時も飽きさせなかった。どちらにも余計なセリフ、シーンは見受けられなかった。

「閻魔堂沙羅の推理奇譚」は主演の中条も魅力的。立場にふさわしい威厳や凄味をうまく表現している。役作りのため、セリフを口にしている間はまばたきをせず、声のトーンも低くしているという。

 一方で、小悪魔的なギャグをたびたび口にして、クスリとさせてくれる。メイクは目の下を赤く染めた恐ろしげなもので、衣装も赤いマントをまとうなど極端なまでに奇抜だが、どちらも不思議と似合っている。

 中条は芸能界屈指の小顔。身長1メートル69センチの9頭身で、股下は80センチ以上あると言われている。身長の約半分が足というわけで、典型的なモデル体型だ。風変わりなメイクと衣装を不自然に感じさせないのは、そのせいもあるのだろう。

 元バドミントン選手(黒島結菜、23)が殺された第3話と第4話こそ2話完結だったが、ゆすり屋が殺害された第5話は基本通りに1話で完結。第6話もそうなる。短時間で終わるから、特に気構えせずに見られるのも30分ドラマの良いところだろう。

 この放送枠「よるドラ」では過去、ゲイの高校生の愛と友情や葛藤を描いた「腐女子、うっかりゲイに告る。」(2019)や伊藤沙莉(26)をヒロインに抜擢した「いいね!光源氏くん」(4月)などを放送してきた。

 ほぼ深夜帯であるため、いずれも視聴率は数%だが、野心作が目立ち、ドラマ関係者やドラマ通の評価は高い。

 そもそもNHK内でも「この放送枠は視聴率より質を」と言われている。高視聴率の獲得を義務付けられる連続テレビ小説や大河ドラマと違い、制作者たちは冒険や挑戦がしやすい。

 作品の良し悪しは放送時間の長さで決まるわけではないが、1時間ドラマなら30分ドラマ以上の見応えを与えてほしい。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月5日掲載

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