「医療崩壊」が起こらない理由を医師が解説 病床使用率は20%強で「余裕でクリアできるレベル」

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欧米より2桁少ない感染者

 新型コロナの感染が再び拡大したことを受け、「医療崩壊」を叫ぶ声が聞かれるようになってきた。が、医師、専門家の声を聞いてみると、実態は異なるようで――。

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「医療崩壊」という言葉を毎日、何度も聞くようになった。メディアもその懸念を頻繁に報じている。

 日本医師会の中川俊男会長が、GoToトラベルの中断を求めたのも、「医療崩壊につながる」からであった。政府の分科会もGoToの運用見直しを政府に提言し、11月21日、菅義偉総理が受け入れたのは、ご存じの通りである。

 たしかに、新型コロナウイルスの感染者数は増えている。東京都では11月27日、1日の感染者数が過去最多の570人を記録した。

 だが、第3波が深刻な欧米諸国とくらべると、どうだろうか。人口が6706万人と日本の半分のフランスでは、ピークの11月7日には8万6852人が感染。死亡者の総数は4万9千人を超える。人口3億2716万人のアメリカ合衆国はけた違いで、11月20日だけで19万6004人が感染し、死亡者の総数は26万3687人を数える。

 ここにきて日本でも感染者数が増えているとはいえ、欧米とくらべれば2桁少ない。死亡者数も11月19日には21人と、20人の大台を超えたが、フランスでは11月17日だけで、1219人が亡くなっている。

そもそも「医療崩壊」とは

 ここで医療崩壊について考えてみたい。感染者数も死者数も日本の数十倍から100倍に達する欧米諸国で、医療崩壊が起きているだろうか。春の第1波の際はともかく、なんとか持ちこたえているではないか。

 翻って、感染者数も死者も一時よりは多いとはいえ、欧米の比ではないほど少ない日本で、なぜ医療崩壊の危機が叫ばれるのか。

 最初に、日本で「医療崩壊」と言ったとき、なにを指すのか確認しておく必要があるだろう。東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授が、「医療崩壊が最も進んだかたち」と話すのは、次のような場合である。

「中国の武漢では、病院の廊下で治療を受ける人がいて、イタリアやニューヨークも一時厳しかった。新型コロナの患者が入院できず、人工呼吸器や集中治療室での治療が必要でも、患者を選別せざるをえず、それが受けられない人がいた、と聞きました。マンパワーは限られているため、こうなると、新型コロナ以外の患者さんも入院できない状況が予想されます」

 だが、幸いなことに、

「日本は第1波でも、そこまではいかなかった。日本が目指しているのは、ワーストの状態にならないのはもちろん、常に平時に近い医療を届けることです。新型コロナの患者は入院が必要であれば遅滞なく入院でき、重症者は人工呼吸器をつけて集中治療室で治療できる。ただ、入院患者全体に占める割合は、新型コロナ以外の患者のほうが多い。それが理想です」

病床使用率は20%強

 では、どうなると理想の実現が阻まれるのか。

「第1波では東京都の死亡者の半数以上が、高齢者施設か院内での感染者でした。その場合、持病がある方が多く、感染連鎖が起きると重症化リスクが高い人が多く感染する。院内感染が起きると、一時的に新規入院を止めるなどの対応が必要になり、広い意味での医療崩壊につながります」

 と、寺嶋教授。病床使用率も、額面通りに受けとれないと指摘する。

「全国の病床確保数は2万5千以上。いま入院患者が5千名強で、病床使用率は20%強。80%が空いているので一見、余裕があるようでも、病床使用率は分母が大きくなれば下がります。いまは一般の病院も新型コロナのために病室を空けています。しかし院内感染に気をつける必要もあり、多くの場合、病棟の一画かすべてを新型コロナ用にするので、ほかの患者用の病床が減ります。そのうえ防護服を着ての対応が必要で、人工呼吸器をつけるなどした重症度の高い人には複数のスタッフがかかる。新型コロナの病床はマンパワーが必要です」

 むろん、理想的な医療環境が維持できるに越したことはない。だが、新型コロナの影響は医療以外に及んでいる。11月20日までに新型コロナの関連倒産は723件に達し、10月の自殺者数は昨年同月にくらべ614人増えた。また、認知症介護研究・研修センターの調べでは、介護指導者の85%が、外出や面会の自粛で認知症患者の症状が進行したと感じている。理想の医療を死守した結果、各方面にしわ寄せが及び、国民の健康が損なわれるなら、それほどの皮肉はない。

「現状は余裕でクリアできるレベル」

 医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏は、

「全国の総病床数は、数え方にもよりますが、130万から150万。本気を出せば、新型コロナの病床を増やせるはずです」

 と指摘し、続ける。

「スウェーデンをみると、新型コロナ用の病床を新規感染者の増減に合わせ、日ごとにドラスティックに増減させています。日本より感染者が多く、全体の病床数はとても少ないのに、なんとかしているのは、臨機応変に病床数を動かしているからだそうです。手術も、緊急手術数は新型コロナの流行前後で変化がありませんが、緊急でない手術はコロナの流行時期には減少し、感染者が少なくなると数が戻っています」

 では、日本はどうか。

「病床を日々増減させるなど夢のような話で、各都道府県が2~3回、新型コロナ病床を作って終わり。日本の医療はほとんど動いていません。新型コロナ用に確保できる病床は、百何十万とあるうちの2万7千床にすぎず、病床使用率はそのうち20%強。国が本気を出すなら心配の要らない数字です。そもそも欧米の感染者数、死者数とくらべれば、日本はせいぜい数十分の一。世界一の病床数を誇る日本にとって、現状は余裕でクリアできるレベルなのに、“医療崩壊だ”と訴える人がいるのは、不可解でなりません」

週刊新潮 2020年12月3日号掲載

特集「コロナ感染者『1日2千人超え」が脅威ならなぜインフル『1日4万人超え』は平気だったのか」より

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