渡辺直美、壮絶な生い立ちから「吉本の宝」へ ノブコブ徳井が明かす天才の素顔

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「レジェンド女芸人」との共通点

 僕が言わずとも周知のことだが、渡辺直美は唯一無二の存在だ。

 と、今回直美のことをじっくり考えていたら、最初に覚えた既視感がなんだったのか、ようやくわかった。

 元祖破天荒女芸人・野沢直子さんと直美は同じ道を歩んでいるのではないかと僕は思う。天下無双のダウンタウンさんがウッチャンナンチャンさんと若手の頃にやっていたコント番組『夢で逢えたら』で競うように脇を固めていたのが、清水ミチコさんと野沢直子さんだ。女性だから、という言い訳はせず、でもきっちりと女性芸人としての立ち振る舞いをし続けたお二人。

 野沢さんは「ダウンタウンには勝てないと思ったからロサンゼルスへ行った」と、インタビューで答えていたことがある。そんな伝説の野沢直子さんに、直美は似ている。

 女性でありながら、女性らしくなく、女性を言い訳にしない、女性ならではの生き方。

吉本本社で談笑したおじいちゃんが実は……

 ある日、直美が新宿の吉本興業本社でぼーっとしていると、隣に白髪混じりのおじいちゃんが座った。誰とでも打ち解けて話せる直美は、そのおじいちゃんとすぐに仲良くなったそうだ。半分くらいは語尾にタメ口を混ぜながら、朗らかに軽やかに喋っていると、直美も知っている吉本のお偉いさんがやってきた。直美は反射的にパッと立ち上がり、その社員に挨拶をした。が、社員は直美そっちのけでその白髪混じりのおじいちゃんに深々と頭を下げる。

「社長、おはようございます」

 白髪混じりのおじいちゃんというのは、あの大﨑洋であった。吉本興業の現会長・大﨑洋は、マネージャーとしてダウンタウンさんと共に芸能界のテッペンに駆け上がった。言わずもがな、我が事務所のドンだ。

 その大﨑さんとは知らず、そこらの公園に寝転がっているおじいちゃんと話すかのように直美はケラケラとお喋りをしていた。そんなエピソードは、漫画くらいでしか聞いたことがない。まるで『サラリーマン金太郎』、まるで『釣りバカ日誌』、まるで『島耕作』。

 大﨑会長としては、地位の高くなった自分とフランクに接してくる渡辺直美が珍しく、嬉しかったのだろうが、直美自身その時は誰と話しているかも分かっていなかったのだ。

 そりゃ、フランクにもなる。

 けれどこれも、誰とでも垣根なく楽しく接することができる、渡辺直美の人間性の賜物だ。

 それから直美はことあるごとに会長に可愛がられることになる。何度もご飯に行ったし、細々としたピンチも救ってもらったと聞いた。

 会長は、あの時自分に物怖じせずに接してくれたから渡辺直美を守り可愛がるのか。それとも、渡辺直美という才能が、吉本興業にとって有益だから可愛がるのか。

 無論、どちらもあるだろう。

 けれども僕は、直美が若かりし頃の野沢さんに似ているからだと勝手に思っている。ダウンタウンさんとしのぎを削っていたあの頃の野沢さんの片鱗が、渡辺直美にはあると。

 それが吉本興業の宝と感じているから、だと思っている。

徳井健太(とくい・けんた)
1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期生だった吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。バラエティを観るのも大好きで、最近では、お笑い番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。有料携帯サイト「ライブよしもと」でコラム「ブラックホールロックンロール」を10年以上連載している。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw

2020年11月28日掲載

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