「FA戦線」がいよいよ本格化…意外な争奪戦が始まりそうな“コスパのいい選手”は?

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 11月17日、NPBはフリーエージェント(FA)権の有資格者として97人の選手を公示した。目玉として見られていた大野雄大(中日)と山田哲人(ヤクルト)は残留を表明し、残る大物は今年最多セーブのタイトルを獲得した増田達至(西武)だが、それ以外にも実力者は少なくない。今回はそんなFA権行使の可能性がある選手をピックアップして、移籍先としてマッチする球団についても探ってみたい。

 まず早々に権利の行使が決定的と言われている選手が井納翔一(DeNA)だ。大学卒業後、社会人で4年プレーをして、26歳となる年でのドラフト指名だったが、即戦力という期待に応えて1年目から先発ローテーションに定着した。

 二桁勝利は2014年(11勝)の一度だけだが、8年間で通算50勝と安定した成績を残している。球数を投げても球威が落ちず、今年で34歳というベテランだが、その投球からは年齢的な衰えは感じられない。先発の5番手くらいの立ち位置であれば、まだまだ十分に戦力として期待でき、人的補償の必要ない「Cランク」という点も他球団にとっては魅力的だ。

 真っ先に獲得に動きたい球団は、苦しい投手陣の台所事情に悩むヤクルトだ。今年、規定投球回をクリアした投手はゼロで、10勝をマークした小川泰弘の去就が流動的であり、井納のような実績のある投手は、喉から手が出るほど欲しい状況だ。高校、大学、社会人、プロと常に関東圏でプレーしてきた井納にとっても大きな環境の変化はなく、同じセ・リーグというのも安心できる材料である。FA権を得た主力の引き留めに注力するだけでなく、チーム強化のためにも、ぜひヤクルトは狙いたいところだ。

 同じDeNAでは梶谷隆幸もまた、FA宣言をするか態度を保留している。過去2年間は右肩の故障もあって低迷したが、今年は9月に球団記録となる月間42安打を放ち、見事に復活。惜しくも首位打者は逃したものの、リーグ2位となる打率.323をマークしている。これだけの結果を残しただけに、DeNAも全力で慰留に努めるだろうが、「打てる外野手」として他球団からの評価も高い。

 チーム事情と梶谷の特徴を考えると、最もマッチしそうな球団は西武だ。新外国人のスパンジェンバーグは、それなりの成績を残したが、メジャーに移籍した秋山翔吾の抜けた穴はまだまだ大きい。調子に波があり、少し扱いにくい選手という印象がある梶谷だが、どんどんフルスイングしていくプレースタイルは、西武でさらに凄みを増す可能性を感じる。西武もヤクルトと同様に、まずは抑えのエースである増田の引き留めが至上命題であることから、梶谷は人的補償が必要な「Bランク」という点がネックにはなりそうだが、梶谷が「他球団の話も聞く」という姿勢を見せた場合には獲得を検討することをおすすめしたい。

 梶谷と同じ実績のある「Bランク」の野手で権利の行使を検討していると言われているのが田中広輔(広島)だ。昨年は右膝の故障もあって打率1割台と大きく成績を落としたが、今年は回復ぶりをアピールするプレーを度々見せており、ショートの守備力は健在だ。通算打率.264に対して通算出塁率は.352と高い数字を残している点もリードオフマンとして魅力である。

 田中がFA宣言した場合、獲得する球団の候補としてまず挙がるのがDeNAだ。ショートは現在、大和、倉本寿彦、柴田竜拓の三人が務めることが多いが、いずれもレギュラーとしては物足りない。守備だけでなく、淡白な打者が多いDeNA打線にとっても、出塁率の高さとスピードがある田中が加わることでのプラスは非常に大きいだろう。田中の地元が神奈川県ということも獲得への追い風になりそうだ。

 井納と同じ「Cランク」の投手でここへ来て注目を集めているのが唐川侑己(ロッテ)だ。2011年には自身最多となる12勝をマークするなど長く先発として活躍し、一昨年からはリリーフに転向。昨年は防御率5点台と苦しんだが、今年は勝ちパターンに定着して、防御率1点台前半と見事な結果を残している。

 奪三振率はそれほど高くないものの、リリーフに転向してから投げることが増えたカットボールを中心とした投球は安定感が十分だ。また、実績もあるだけに先発に再転向というプランもありうるだろう。投手陣が苦しい球団としては井納のところでも触れたヤクルト、同じパ・リーグであればロッテや日本ハムも候補となるだろうが、場合によっては、巨人や楽天などFAで選手を獲得した実績が多い球団が動くことも大いに考えられる。今回紹介した選手の中でも、最も激しい“争奪戦”になるのは唐川かもしれない。

 昨年のFA戦線では、福田秀平(ソフトバンク→ロッテ)が一番人気となったように、ここ数年は年俸が比較的安くて人的補償も発生しない「コスパがいい選手」への注目度が高まっている。本格的にFA戦線が動き出すのは日本シリーズ終了後だが、取り上げた選手たちがどのような判断を下すのか、どの球団が獲得に動くのか、今後の動向にも引き続き、注目していきたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月23日掲載

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