「Go To」が作った「無駄に恐れない空気」 東京者お断りの空気も緩和(中川淳一郎)

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 11月1日、佐賀県唐津市に移住しました。私が心配していたことのTOP3に入っていたのが「コロナ東京差別」でした。何しろ、春から夏にかけて地方の人々は、東京からやってくる人をコロナ陽性者扱いし、我が地元に地獄のウイルスを撒き散らして地域を崩壊させる悪魔のようなヤツである、お前らは!といった差別をし続けてきた――散々そう報じられたのですから。

 だから戦々恐々で福岡空港に降り立ち、そして電車に乗って東唐津駅へ。もう、ここからはガスマスクと防護服を着けなくては「お前ら東京モンは先には通さねぇ~(怒)」という状況になるのでは、とおびえつつ普通のマスクでいざ改札へ。駅で呼んだタクシーの運転手はマスクを着けていたものの、我々に対して特に警戒感は示しません。

 旅館に着くと、従業員は全員マスクを着けていました。私と妻は、従業員が案内・お茶入れを終えたらマスクを取りました。その後、ルームサービスでビールを頼んだところ、2人の従業員がやってきました。

「あっ、マスクを着けなくちゃ!」と言ったところ、「私達が着けているので構いませんよ」とにこやかに返されました。旅館の客はおそらく他の地方から来た人ばかりだと思われ、朝食のため食堂に行くと、全員がマスクを着けていました。まぁ、当然食事の時は外し、食べ終えるとすぐに着けていましたが。

 この日は佐賀県庁の人に迎えに来てもらい、移住支援のNPOの人々と打ち合わせをしたのですが、皆マスクを着けている。でも、その後寄ったガソリンスタンドでは、していない従業員もいる。小売店内の客や道を歩く人のほとんどはマスクをしています。さらに東京から来たライターのヨッピー氏と2人の県庁職員が合流し、ワゴンタイプのレンタカーに6人が乗る「3密」状態になったので、県庁の人たちに聞いてみました。

「あのぉ~、東京から来た我々3人のこと、皆さんは怖くないのですか? なんか『東京者お断り』みたいな雰囲気が初夏の頃ってあったじゃないですか」

 彼らは顔を見合わせ「いえ、全然ないですよ」とあっさりと言います。

 そこから先は、アンタが興味を持っている野菜を栽培するぜ、ベイベー!と言ってくれた農家を訪問して顔合わせをしたほか、有明海を望む絶景スポットに「屋外サウナ」を作っている男性軍団のところに行きました。一人もマスクを着けていません。

 私は東京から来た人間だから、県庁の職員は、役人たるもの県民を恐れさせてはいけない、ということでマスクは着けています。しかしサウナ小屋に入れば全員が外すわけで、「陽性者以外は『マナー』として着けている」のだと改めて認識した次第です。

 さて、GoToトラベルキャンペーン、当初は批判されましたが、もしかしたら県外からの観光客を無駄に恐れない空気を作ったのかもしれないな、と今回佐賀で感じました。東北の一部の県で見られた、飲食店のドアなどの「他県からのお客様の入店はご遠慮ください」という貼り紙は一度も見かけませんでした。潮目は若干変わったかもしれません。現地からは以上です。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年11月19日号掲載

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