何か何でも若者を…テレビ朝日、19時から「15分繰り上げスタート」の効果は?

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 テレビ朝日が10月から平日午後7時台の番組の開始を15分繰り上げた。それぞれの番組が同6時45分スタートに。その真の狙いは何なのか。改革から1カ月以上が過ぎたが、どんな効果がもたらされたのだろうか。

 結論から書いてしまうと、長嶋一茂(54)、石原良純(58)、高嶋ちさ子(52)によるトークショー「ザワつく!金曜日」は世帯視聴率が約2~3%伸び、時には15%以上の高い数値をマークするようになった。けれど、ほかの番組の世帯視聴率はほぼ横ばい。目立ったプラス効果が出たとは言い難い(視聴率は全てビデオリサーチ調べ)。

 逆にマイナス面が浮き彫りになっている。

「15分の繰り上げを始めたのはテレ朝と一部のローカル局だけ。大阪の朝日放送や福岡の九州朝日放送など大半の系列局は従来通り午後7時スタートのまま。では、全国ネットの番組をどうやって放送しているのかというと、テレ朝のスタッフは自分のところで流す冒頭部分を別に制作している。現場は『面倒だ』とこぼしている」(日本テレビ制作スタッフ)

 例えば、10月28日放送の「あいつ今何してる?」では最初のコーナー「名門校の天才・奇才卒業生は今?」がテレ朝と一部のローカル局でしか流れていない。つまり、番組が前後半に分かれており、大半の系列局では前半が放送されていないのだ。

「テレ朝の営業は関東にしか流れない冒頭15分のスポンサーを別に獲得しなければならないから、これも面倒」(同・日テレ制作スタッフ)

 では、どうしてテレ朝がマイナス面もあるのに15分繰り上げに踏み切ったかというと、もちろん視聴率のため。厳しい戦いをしているからだ。

「テレ朝の視聴率は上位のはず」と思われる向きも少なくないだろうが、それは1962年から続いてきた古い指標である世帯視聴率の話である。

 世帯視聴率の場合、独居老人世帯と4人家族の世帯が同じ1世帯としてカウントされてしまう。子供が7、8人いる大家族もそう。なので、もはやスポンサーは「何人観ているのか」という個人視聴率にしか関心がない。個人視聴率の調査は1997年から始まり、この春から本格化した。

 さらに、スポンサーは若い世代を好む。物を積極的に買い、レジャーにも興じたがるからだ。では、テレ朝が若い世代の個人視聴率を得ているかというと、そうとは言い難い。

個人視聴率を見ると

 TBSが11月5日に発表した株主向け決算資料に2021年度上半期(3月30日~9月27日)の13~59歳男女の個人視聴率が出ている。その結果は世帯視聴率とは驚くほど違う。

※左から全日帯(午前6時~深夜0時)と順位、ゴールデン帯(午後7時~同10時)と順位、プライム帯(午後7時~同11時)と順位。ビデオリサーチ調べ、関東地区。数字は%。

●NHK 1・4(5) 3・5(5) 3・0(5)
●日テレ 4・7(1) 7・7(1) 7・4(1)
●テレ朝 2・5(4) 4・0(4) 4・4(3)
●TBS 2・6(3) 4・7(2) 4・8(2)
●テレ東 0・9(6) 2・5(6) 2.3(6)
●フジ 2.9(2) 4・4(3) 4・4(3)

 一方、同じ3月30日~9月27日の世帯視聴率は次の通り。

●NHK 6・7(4) 12・0(2) 10・3(3)
●日テレ 8・8(1) 12・1(1) 11・6(1)
●テレ朝 8・3(2) 11・0(3) 11・6(1)
●TBS 6・8(3) 9・2(4) 9・3(4)
●テレ東 3・0(6) 6・9(6) 6・2(6)
●フジ 5・9(5) 8・0(5) 8・0(5)

 テレ朝は世帯視聴率のプライム帯なら日テレと並んで1位、全日帯は2位なのだが、これが13~59歳男女の個人視聴率になると、ガクンと落ちる。全日帯とゴールデン帯はTBS、フジに敗れてしまい4位だし、世帯視聴率では強いプライム帯も3位なのだ。つまり、テレ朝の視聴者は60歳以上と12歳以下が多い。

「テレ朝のトップである早河洋会長は放送担当記者を対象とした会見の中で『シニア層の人口は今後も増える。この層はお金を持っている』と発言したものの、スポンサーが欲しがる視聴者はやはり若い世代。その獲得に成功しないと高い収益は見込めない」(一般紙学芸部記者)

 そこでテレ朝は15分繰り上げに踏み切ったのだという。

「若い世代を取り込もうという腹積もり」(同)

 確かに、民放の夕方のニュースは各局とも2、3時間やっており、同じネタを何度も取り上げたり、長閑な生活情報を延々と流したりするから、若い世代には退屈かもしれない。テレ朝は「ニュース以外の番組が早く観たい」という若い世代を獲得しようとしているのだという。

 若い世代を狙おうとするなら、おそらく他局は番組の中身を刷新するだろうが、番組編成の枠組みを変えるというのはテレ朝らしい発想だ。

 テレ朝は2010年7月に「お試しかっ!&Qさま!!夏休み合体3時間スペシャル」を放送し、これが16・4%と高い世帯視聴率をマークすると、以後は合体スペシャルや長時間番組を量産した。

 他局も対抗上、追従せざるを得なくなり、ゴールデン帯に長時間番組が増えた。合体スペシャルには番組全体にお祭り感が出るというプラス面があり、長時間化には視聴者が番組途中で他局に流れにくくなるという効果がある。

「合体スペシャルと長時間化の流れをつくったテレ朝の存在は正直なところ迷惑この上なかった。従来の番組制作のスタイルを崩さなくてはならなかったし、やはり営業が大変。スポンサーはあくまで単体の番組を提供しているので、合体や長時間化の際にはいちいち了解を得なくてはならない」(同・日テレ制作スタッフ)

 15分繰り上げも他局に波及するかというと、これには否定的な意見が目立つ。

「今のところ若い視聴者にも目立った変動は起きていないから、追従する動きは見られない。長年の視聴スタイルを崩すのは簡単ではないはず」(フジテレビ制作スタッフ)

 もっとも、他局の戦術が成功を収めたら、躊躇なく模倣するのがテレビ界の常。合体スペシャルと長時間化がそうだった。

 夕方のニュースも午後6時スタートが常識だったが、日テレが1996年に30分繰り上げ、視聴率をアップさせると、各局間で繰り上げ競争が始まり、今では日テレ、TBS、フジが午後3時台から放送している。テレ朝の15分繰り上げ戦術も成果が上がったら、他局も繰り上げに踏み切るに違いない。

 テレ朝は再びテレビ界の改革者になるのか、それとも戦術を誤り、若い世代には人気薄の局に甘んじたままなのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月18日掲載

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