「17連休」導入で何が起こるか 非正規労働者切り、自殺の増加、観光業では離職者が(中川淳一郎)

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 西村康稔経済再生担当相が年末年始の17連休化を経済界に要望へ、というニュースが入ってきた日に本稿を書いています。

 それだけはやめてくれ。西村氏が言うところによると、正月の初詣や帰省・Uターンラッシュを分散化させることにより、「密」を避けるそうです。いや、もうさ、コロナの死者数はインフルエンザより少ないわけだし、若者はほぼ死んでいないんだから、死亡率がいきなりはね上がる高齢者だけに自粛を求めればいいでしょうに。

 起こり得る事態を考えてみます。まずは経済の問題。固定給で働く正社員・正職員とは異なり、非正規労働者やフリーランスは収入が減ります。2020年4月の緊急事態宣言と、長きにわたって続けられた自粛により、すでに年収が激減したであろう人に対して、政府はさらに追い打ちをかけるつもりですか? 休業補償を求める声も出るでしょう。それに対してさらに税金を投入し、給付用の人員を外注するカネがかかり、再び不正受給が相次ぐ。

 8月の自殺者は前年比240人増(+15%)の1849人となりました。コロナとの因果関係は分からないものの、明らかに増えています。正月明け以降、さらに自殺者が増えないか心配です。高齢者の命を守るために若者が死んで何になるのか。

 企業も工場の閉鎖を続けたら売り上げは減るし、当然従業員にも給料が払えなくなり、まずは非正規が切られるでしょう。続いて中小企業が倒産する。一方、17連休で売り上げが良くなる観光業界では、働き詰めになる従業員が出てきて離職率が高まる。経済の面では、いいことはまったくないのです! 2020年、我々はもう休み過ぎました。こうした提言をする国会議員や官僚はボーナスの減額などはするものの、安定した給料をもらえるわけです。我々は皆さんと違うんです!(福田康夫風)

 続いては家庭不和です。春から夏にかけて「一日中夫がいてもう耐えられない」「妻の仕事人としての顔を見てドン引きした」「子供の面倒を見続けてもう頭が狂いそう」「1日3回の食事の支度がきつい」みたいな声が多数聞かれました。

 しかも、年末年始は受験の直前にもあたるし、学校や塾、予備校で勉強できなくなった場合、人の一生を左右しかねません。

「お前、『やめろ』というなら対案を出せ」と言われるので、対案を出しましょう。そんなに初詣の「密」を警戒するなら、「別に初詣は三が日に行くから効果が高いわけではない。その年初めて詣でる日が『初詣』なので、皆さん、慌てないでください。少しくらい遅れても、神様はあなたを邪険に扱いません」とだけ言えばいい。それでも三が日に行く人は自己責任。別に初詣でクラスターが発生するとは思えませんが、こうでも言わないと日本人は本当に動かないんですよ。

 なんでこんなに従順な国民性なんだろう。私みたいにお上の言うことにもまったく耳を傾けず、法律違反や犯罪をしない範囲で好き放題生きている人間からすれば、皆さん、リスクゼロ信仰をそんなに大切にして生きていて、息苦しくないですか?と本気で心配しちゃいます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年11月12日号掲載

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