赤楚衛二、町田啓太 「BLドラマ」が「深夜枠」から飛び出すキッカケとなるか

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赤楚と町田の王道A面、浅香とゆうたろうのコメディB面

 その後、志尊淳主演「女子的生活」(2018年・NHK)ではLGBTQに無理解・無神経なダメ男役を、有村架純主演「中学聖日記」(2018年・TBS)では婚約者を中学生男子にとられるっつう屈辱を味わう男性役と、幅を広げてきた。

 ここにきて、ドーン、ド直球BL! いい流れである。

 ちょっと素敵やん? と思わせるのは、赤楚も町田も配慮ができるいい人で、心の声を読むほうも読まれるほうも優しさに満ちているからだ。

 漫才でいうなれば、ぺこぱ。決して悪く言わない、むしろ善意に見事に転換するというネタだ。そんな空気感が実に今っぽくて、観る者をイヤな気持ちにさせないのだ。

 いや、そんなわけあるかーい! と心が汚れた人間は一瞬思ってしまうが、ここに出てくる人々は実に純朴で優しい。

 優しさと善意を丁寧に重ねていくことで完成する、男性同士の純愛。現実は反吐が出そうな男性優位社会で、心が荒んだ女性たちが深夜のテレ東で癒される時間として大成功しているのだ。お客さん、つかみましたね。

 で、赤楚と町田のカップルだけではない。もう一組いる。

 安達の親友で同じく魔法使いになったのが柘植将人。演じるのは二枚目バイプレイヤーの浅香航大。

 斜に構えた物言いで大人ぶるが、実は童貞でうっかり魔法使いになっちゃった設定だ。

 飼い猫のうどんを介して、宅配便男子・綿矢湊(演じるのは超絶可愛いゆうたろう)の心の声を聴いてしまったことから、胸のざわつきとときめきが始まる。

 浅香の困惑っぷりはコミカルなので、赤楚と町田の王道A面、浅香とゆうたろうのコメディB面と、緩急ついた2種の味わいがある。

BLの世界を邪魔しない、寛容な女の存在は大きい

 心の声が基本的に「相手の魅力や長所を理解している」ので、自己肯定感の低い人間はそれだけで恋が始まっちゃうわけよね、男とか女とか関係なく。

 恋愛というよりも、自己評価の回復と向上に貢献しているあたりが、今の若い人にはなじみやすいのだと思う。

 BLには女性不要と思いきや、ちょうどいいスパイスとして同僚女性(佐藤玲)や元カノ(野崎萌香)も登場。特に、佐藤は傍観者というか、オブザーバーとしての役割を果たしている。

 恋愛に興味がないという立ち位置にしたのも、絶妙な計算だと思った。恋愛にまったく興味がないのに、興味がある「普通の女」のフリをして生きている。

 彼女は彼女で、「男と女が対であるべき世界」に息苦しさを覚えているのだ。BLの世界を邪魔しない、寛容な女の存在は大きい。

 男性同士の恋愛を愛でる文化は、想像以上に猛威を振るっているなあと感じる今日この頃。WOWOWではタイのBLドラマ「2gether」も放送し始めた。

「おっさんずラブ」のBLコメディ路線が大成功したし、BLを深夜枠だけにとどめていてはもったいない、とテレビ局は思い始めるかどうか。この作品にかかってくるかもしれない。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月12日掲載

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