「裏アカ」で性的な告白、ゲームに廃課金 親は知らない「スマホ」の怖さ

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「裏アカ」で性的な告白

「恋愛体験を告白する動画や、性的嗜好を明かすツイートを見て触発されたようです。ただ、その後の影響までは冷静に考えられなかったんでしょうね」

 沈痛な表情で語るのは、高校2年生の娘を持つ母親(44)だ。娘は10カ月前から不登校になり、自宅に引きこもっている。引き金になったのは、娘が開設したツイッターの投稿。性的な告白が綴られ、学校内で噂になった。

「同じ学校の男子名を出して『〇〇君とヤリたい』とか、『縛っていいよ』とか、目を覆うような内容でした。娘に問いただすと事実ではなく、性的な想像でつい大げさに書いてしまったと。告白動画に感情移入しすぎて、赤裸々に語りたくなったそうです」

 彼女は娘のツイッターをときどき見ていたという。ところがそれは「本アカ」で、要は本人と特定できる表向きのアカウント。性的な告白をしていたほうは「裏アカ」で、親はまったく承知していなかった。

 ツイッターなど一部のSNSでは、ユーザーが複数のアカウントを持つケースがある。アカウントとは「サービスを利用する権利」という意味だ。

 銀行口座に例えれば、家族が知っている口座が「本アカ」、ヘソクリ口座が「裏アカ」で、キャッシュカードを使い分けていると考えればいい。

 それにしてもなぜ「裏アカ」が特定され、学校内の噂になってしまったのか。友達の「裏アカ」を見つけたことがあるという女子高校生(18)はこう話す。

「裏アカといっても、本アカと共通してる部分があるんですよ。たとえば投稿してる写真が同じとか、好きな芸能人や飼ってるペットの名前を出してるとか。部活の試合で勝った、風邪をひいて学校を休んだ、そういう個人情報を書き込んであると、検索で引っかかるんです」

 性的な告白をした先の女子高校生は、「裏アカ」に同じ学校の男子名を出していた。おそらくそうした情報から特定されたのだろうが、実は「本アカ」「裏アカ」を問わず、SNS利用にはリスクがつきまとう。

 一般的にはあまり認識されていないが、SNSでは投稿写真や書き込みから個人情報を割り出すことができる。

 たとえば中学生の少女が「今日は15歳の誕生日」と投稿すれば、年齢と投稿日から生年月日がわかる。「家族と焼肉を食べました」という書き込みとともにメニュー写真が掲載されると、店名などから生活圏が絞り込める。仮に生活圏内の中学校が1校ならば、投稿者の学校名は簡単に特定できるのだ。

 さらに「自画撮り」と呼ばれる自分の顔写真を出していれば、学校前で待ち伏せされる可能性もある。誰かが写真と同じ少女の後をついていけば、今度は自宅が特定されるというわけだ。

 情報セキュリティ企業のデジタルアーツが実施した「第13回未成年者の携帯電話・スマートフォン利用実態調査」(2020年4月)によると、子どものSNS利用率は小学生・77%、中学生・95%、高校生・97%に達する。

「裏アカ」の所有率は小学生・32%、中学生・34%、高校生・55%。日常的にSNSや「裏アカ」を利用しながらも、当人たちの危機意識は低い。SNSを通じた誘拐事件や自画撮り被害は、約9割が「実感なし」と答えている。

コロナいじめも

「みんなやってるから平気」、そんな意識の低さが顕著に表れるのがSNSいじめだ。SNSいじめでは、不特定多数による誹謗中傷や、事実無根の情報に基づく一方的な攻撃が起きやすい。5月にはテレビの恋愛リアリティ番組に出演していたプロレスラーの女性が自殺に追いやられ、大きな問題になった。

 一方、子どものSNSいじめは同級生や部活動の仲間など実生活の関係性から起きやすい。

 加害者の特定は容易だが、反面、加害者との関係性を完全に断ち切るのがむずかしくなる。お互いが顔見知りの場合には、実際の性格や外見などが攻撃材料になるため、被害者のダメージはより深刻だ。

「加害者は被害者の子の悩みやコンプレックスをネタに、エグイ言葉でいじめてくるんです」

 伏し目がちに語るのは神奈川県に住む女子高校生(16)だ。中学時代、クラスの女子集団からLINEのグループトークで執拗ないじめを受けた。当時の彼女は硬い髪質に悩んでいたが、「わざと毛の話を振られた」という。

「ひとりがタワシの写真を投稿する。そしたら別の子が『剛毛に近づくと痛いので注意』とか、『みんなで避けよう』なんてつづける。私のことを言ってるんだとわかるけど、明日も学校で顔を合わせると思うと言い返せないんです」

「痛い」や「避けよう」は遠回しな中傷だが、個人名は挙げられていない。あくまでも匂わせているだけという表現で、実は巧妙なSNSいじめの典型例だ。

 公立中学で生徒指導を担当する教師(41)は、コロナ禍でのSNSいじめの増加を懸念している。

「学校再開後、生徒や保護者からの相談が増えたんです。コロナ絡みでいじめるような陰湿なケースもあり、対応に苦慮しています」

 たとえば「飛沫が怖いからしゃべらない」というこじつけで、特定の生徒を無視する。「3密回避」を攻撃材料にするケースでは、「〇〇と同じ教室にいるとヤバイ」、「近くの席の人は除菌しよう」などとSNSに書き込む。

「クラスのグループLINEで、『コロナになりそうな子』や『密になる人がいない子』を投票で選ぶという集団いじめもありました。持病のある女子生徒や友達が少ない男子生徒をランキングし、みんなで『祝』のスタンプを連投していたんです」

 利便性の陰で深刻なトラブルやリスクに直面する子どもたち。健康を損ねたり、日常生活に支障が出たりする恐れがある以上、親として看過できるものではないはずだ。

 次回は、我が子をスマホ漬けから守り、犯罪に巻き込まれないための実践例を報告。子どものスマホトラブルを防止する具体的な対応策を紹介しよう。

ジャーナリスト 石川結貴

石川結貴(いしかわゆうき)
ジャーナリスト。家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに豊富な取材実績を持つ。主な著書に『子どもとスマホ~おとなの知らない子どもの現実』、『スマホ廃人』、『毒親介護』など。

週刊新潮 2020年11月5日号掲載

特集「『SNSいじめ』『ゲーム障害』『誘拐監禁事件』 親は知らない『スマホ』で子どもが危ない 前編」より

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