“暴走老人”の手本となる群馬88歳被告 「人生の最後に罪を償いたい」

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 高齢者による自動車運転について大きな議論を呼ぶきっかけとなった東京・池袋の暴走事故。母娘2人の命を奪い、9人に重軽傷を負わせた飯塚幸三被告(89)が10月8日の初公判で「原因は車の不具合だった」と無罪を主張したのは周知の通り。一方でその2日前、東京高裁では“真逆の光景”が展開されていた。同じく運転中に死傷事故を起こした高齢被告が「どうか有罪にして」と求めたのだ。

 2018年1月、当時85歳の男性は群馬県前橋市を走行中、自転車に乗った女子高生2人をはね、1人が死亡、1人が重傷を負う。自動車運転処罰法違反で逮捕・起訴された男性はしかし、一審で無罪となった。

「前橋地裁で行われた一審では、被告の注意義務違反を問えるかどうかが争点のひとつとなりました」

 とは社会部デスク。

「被告の男性はしばしば低血圧によるめまいや意識障害を起こし、事故当時も意識障害があった。そのことをもって起訴状は『事故は予見可能で運転を避けるべきだった』としました。一方の弁護側は、男性が前立腺肥大症の薬を常用し、その副作用による血圧降下で意識障害を起こしたもので、事故の発生までは予見不可能だったと主張。裁判所は結果、検察による禁錮4年6月の求刑を退け、弁護側の言い分を認めたのです」

 被告のかかりつけ医が出廷して「運転はダメだとまでは明確に伝えていない」などと証言したことも大きかった。が、これとはまったく異なる訴えを一貫して続けていたのが家族だ。

「家族の証言では、男性は以前から物損事故をよく起こし、みなで本人に運転をやめるよう再三言っていたとのこと。事故の3日前にも自宅ブロック塀に車をぶつけており、いっそ車のカギを取り上げるか、タイヤの空気を抜くしかないと考えていたそうです」(同)

 他ならぬ男性の長男は法廷で、こう訴えていた。

「私は無罪を希望しません。父は有罪になり、罪を受け止めるよう願っています」

 社会部デスクが続ける。

「一審の無罪判決を受け、検察側は控訴。これにあわせて被告側は国選弁護人を解任し、被告とは40年来の友人である私選の弁護人をつけました。すでに88歳となり、一審の公判中も意思疎通に支障をきたすなど認知症の疑いが見られる被告とこの弁護士が話し合い、控訴審では公訴事実を認め、有罪判決を求めるという方針を決定したのです」

 被告はこう語っているという。人生の最期を迎えるにあたり、罪を認め、償いたい、と――。

 被告が“逆転有罪判決を目指す”異例の展開。せめてもと贖罪の意思を本人と家族までもが示した今回の事態を、池袋事故の被告関係者はどう受け止めるか。

週刊新潮 2020年10月22日号掲載

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