期待通りの森下、最も苦しいスタートとなったのは? 昨年ドラフト1位の現在地

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 10月26日に迫ったプロ野球ドラフト会議だが、昨年の会場を沸かせた12球団のドラフト1位の選手たちは果たして1年目をどう過ごしたのか。それぞれの現在地を探ってみたい。

 まずここまで最も期待通りの活躍を見せているのは森下暢仁(広島)になるだろう。キャンプ、オープン戦から順調な調整を見せて開幕ローテーション入りを果たすと、ここまでチームトップの7勝をマークするなど、もはや“投手陣の大黒柱”ともいえる存在となっているのだ。わずかに規定投球回には到達していないものの、防御率2.43、奪三振率9.32というのも立派な数字である。新人王に関しては高校卒2年目の戸郷翔征(巨人)との一騎打ちとなっているが、戸郷が徐々に成績を落としてきているだけに、十分にチャンスはありそうだ。

 一方のパ・リーグで、最も一軍の戦力となっているのが小深田大翔(楽天)だ。持ち味であるスピードをアピールして開幕一軍入りを果たすと、7月以降はスタメン出場機会を増やし、現在はショートのレギュラーとしてプレーし、全12球団のルーキーの中で唯一規定打席にも到達している。打率は2割後半とそこまで高いわけではないがチームトップの盗塁数をマークするなど、球団が強化すると明言していた足を使った細かい野球への貢献度は高い。新人王争いはいずれも高校卒3年目の安田尚憲(ロッテ)と平良海馬(西武)との争いとなっているが、ルーキーという点で票を集めやすいというのは有利だろう。

 森下、小深田に次いで一軍の戦力となっているのが宮川哲(西武)だ。防御率は4点台と褒められた数字ではないが、ここまで1勝9ホールドをマークし、ブルペンを支える存在となっている。制球力はやや不安定だが、奪三振率も高水準を維持している。

 ドラフト会議前に目玉と言われていた佐々木朗希(ロッテ)と奥川恭伸(ヤクルト)は、じっくりと育てるという球団の方針通り、今年はトレーニングの日々が続いている。佐々木はシーズン前のシート打撃でいきなり160キロをマークするなどその能力の高さを改めて見せつけたが、まだその強度に耐えられる体ではないという判断でそこからペースダウン。一軍選手登録はされていないものの、一軍に帯同して吉井理人ピッチングコーチが見守る環境で調整を続けている。ブルペンでの投球もほとんど行っておらず、身体的な不安説も流れているが、今年はとにかく体をしっかり作り、実戦デビューは来年というのが既定路線と言えそうだ。

 奥川は、佐々木とは異なり、二軍で調整を続け、6月には実戦登板して見事な投球を見せた。その後はコンディション不良もあって戦列を離れていたが、9月30日に行われたBCリーグ選抜との交流戦で約2カ月ぶりに実戦復帰を果たしている。チームも最下位に低迷しているだけに無理をさせるような状況ではないが、シーズン最終版でお披露目的に一軍マウンドに上がる可能性もありそうだ。

 この二人よりも早く一軍デビューを飾ったのが宮城大弥(オリックス)だ。二軍ではチームの勝ち頭となって結果を残し、10月4日の楽天戦で一軍先発デビュー。勝ち星こそつかなかったものの、5回を投げて2失点と試合を作り、チームの勝利に貢献した。

 高校生のドラフト1位投手では西純矢(阪神)は、二軍で8試合に登板して3勝1敗、防御率2.70と安定した成績を残している。宮城と西は高校時代から体作りが進んでいた印象が強いだけに、佐々木、奥川よりも早く一軍戦力となる可能性もありそうだ。

 野手で一番人気だった石川昂弥(中日)は、高橋周平が故障で離脱した7月12日に一軍昇格を果たすと、プロ初打席でいきなり二塁打を放ちプロ初安打をマーク。その後も7月末まで一軍でプレーを続け、ホームランこそ出なかったものの14試合の出場で8安打を放った。その後は二軍でプレーしているが、ウエスタンリーグの首位打者争いを演じており、1年目にしては上々の出来と言える。

 一方、同じ高校卒野手の森敬斗(DeNA)は、二軍で打率2割台前半とプロの投手を相手に苦しんでいるが、47試合に出場して6盗塁と持ち味のスピードは見せている。実戦を重ねながらレベルアップしている最中というところだ。

 ここまでは比較的順調な選手を紹介したが、逆に苦しんでいるドラ1もいる。二度目の入札で2球団が競合した河野竜生(日本ハム)は開幕ローテーション入りを果たしたものの不安定な投球が続き、8月下旬には登録抹消。10月に一軍復帰を果たしたが、4日のソフトバンク戦では1回を持たずに降板となっている。

 同じく社会人からプロ入りした佐藤直樹(ソフトバンク)も二軍で自慢の足は見せているものの、打率は2割台前半に沈んでいる。ともに高校卒3年目でのプロ入りでまだ若さはあるだけに、来年以降の巻き返しに期待したい。

 そして最も苦しいスタートとなったのが堀田賢慎(巨人)だ。キャンプ中に右肘の不調を訴え、4月にはトミー・ジョン手術を受けている。元々将来性を評価されてのプロ入りだっただけに、まずはしっかりと完治させることに専念してもらいたいところだ。

 よく「即戦力」という言葉が使われるが、一年目から一軍の戦力となる選手はごくわずかである。一年一年が勝負のプロ野球だが、まだまだ選手生活は始まったばかり。スタートで出遅れた選手についても、来年以降の飛躍に期待したい。

※成績は10月9日時点

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月16日掲載

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