需要9割減、「はとバス」とLCC「ジェットスター」が考えたバスと航空機の有効活用術

国内 社会

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 10月1日から「Go To トラベルキャンペーン」に東京発着の旅行が追加され、同時に「Go To イートキャンペーン」も開始。閑古鳥が鳴いていた国内の観光地にも、ようやく人出が戻ってきた。コロナ禍で苦しむ観光業や飲食業の人々にとっては、ようやく光が見えてきた、といったところだろう。

 外出自粛要請などで特に大きなダメージを受けた業界といえば、やはり観光業である。都内観光をメインとする(株)はとバスでは、今年8月の観光バス事業の売上が約2000万円にまで落ち込んだという。昨年同月の売上約10億5000万円に対し、なんと98%のマイナスである。その上、期待していた「Go To トラベルキャンペーン」では当初、東京発着の旅行が除外されてしまったのだから、まさに“泣きっ面に蜂”状態だったに違いない。

 あるいは“空の玄関”成田空港。外国との往来が事実上ゼロになったため、一時期は空港のロビーからほぼ完全に人影が消えた。本来なら稼ぎ時であるはずのゴールデンウィークも、今年は国際線の予約が前年比97%減という壊滅状態だった。これを受けて、航空会社では国内最大手のJALとANAが相次いで来年度入社の新卒採用を停止(パイロットなど一部職種を除く)。資金繰りも悪化し、両社はそれぞれ約3000億円の「緊急対応融資」を受けることになった。

 この絶望的な状況を、これらの業界で働く人々はどのように耐えていたのだろうか。大型観光バスにしても、巨大な航空機にしても、実際に運行(あるいは運航)してナンボの乗り物である。逆に、動かさなくてもメンテナンスは必要だし、駐車あるいは駐機しているだけでも莫大なコストがかかってしまう。また、一口にテレワークといっても、大勢の従業員が全員自宅で仕事ができるわけではない。かといって簡単に解雇したり、給与の9割をカットしたりするわけにもいかない。経営者の立場に立てば、頭を抱えてしまうのが当然だろう。そんな中、コロナ禍をなんとか生き抜くために各社は人知れず知恵を絞っていた――。

 9月19日~22日の四連休。東京・大田区の「はとバス」車庫では、「バスでつくる巨大迷路体験」と銘打ったイベントを実施していた。イベントのもともとの目的は、大型バスの換気能力を体験してもらい「コロナ禍でも安心な乗り物」だとアピールすることだったという。ただ、“それだけでは来場者を十分に楽しませられない”ということで、出番もなく駐車場にすし詰めにされていたバス60台を並び替え、巨大な迷路を造ったのだ。

 同社の広報担当者いわく、

「当社の腕利きの運転手10名が7時間かけて、何度も何度も切り返して完成させました。

 巨大なバスを精密にコントロールして並べるのは、見た目以上にテクニックが必要です」

 イベントに参加した子ども連れの家族は、「夏休みもどこにも連れて行ってあげられなかったので、子どもは久しぶりにバスに乗るだけでも大喜びでした。迷路も楽しかったです」と満足気だ。

「当初は四連休のうち三日間だけの開催予定でしたが、チケットが発売後すぐに売り切れてしまったため、急遽四日目も追加しました。おかげさまでご好評をいただき感謝しております。はとバスツアーのご予約は10月に入ってようやく微増していますが、まだまだコロナ前には程遠い状況です。これから少しずつ需要を取り戻していけたら、と思っています」(はとバス広報担当者)

空飛ぶ学び舎

 次に、ある意味では大型バス以上に“やっかい”な航空機。JALやANAですら苦境に立たされている中、ギリギリまでコストを切り詰めて効率化することで成り立っていたLCC(格安航空会社)は、さらに大変である。ジェットスター・ジャパン(株)では、

「緊急事態宣言が出された5月~6月期は、国内線24路線のうち2路線しか運航できませんでした。この9月~10月は計画に対して約半分の運航便数となっています」(ジェットスター・ジャパン広報)

 そんな中、チャーター機の手配を行う(株)エアーチャータージャパンという都内の会社が、ジェットスター・ジャパンに対してこんな提案をしたという。

「機材に余裕があれば、航空機を使って子どもたち向けの“空飛ぶ学び舎”をやりませんか」

 感染拡大防止を理由に、運動会や文化祭、修学旅行までキャンセルしたという学校も多い。特に修学旅行は子どもたちにとって、学校生活で最大の思い出作りの場であると同時に、その名のとおり修学、つまり貴重な学習の機会でもあるはずだ。

「私どもが提案したのは、中学や高校向けの“成田発―成田着”の周遊フライトです。航空機の中は非常に換気が良いので、搭乗前の健康チェックさえきちんと行えば、クラスターの発生確率も高くない。普段より低速・低高度で飛行し、富士山や南アルプスの山並みなどを見る1時間半ほどのフライト。その間、機内では、現役パイロットによる実況アナウンスや、CAの実務見学、機内アナウンス体験などの“空のお仕事”学習プログラムを実施します」(エアーチャータージャパン・中鉢真輔社長)

 9月30日に行われた、旅行会社や学校関係者向けの体験フライト。地元・成田市のある中学校の教諭は、「景色もすばらしかったし、機長やCAの方のお話も聞けるので、子どもたちへの教育的効果は非常に高いと感じました」と好感触。

 使用する機体はエアバス「A320」で、客席は最大180席。料金は人数やプランにもよるが、仮に一学年130人だとして、一人当たり3万円を切る価格でチャーターできるという。さらに「Go To トラベルキャンペーン」を利用すれば2万円程度になるので、修学旅行の積立金(例えば千葉県の場合、中学校で一人5~6万円、高校で10万円ほどだという)を使っても十分に実施出来る。「空港近辺での宿泊も含む旅行と組み合わせて、なくなってしまった修学旅行の代替としてこの“空飛ぶ学び舎”プランを提案したいと思います」(中鉢社長)

 先の体験フライトでは、メインターゲットである中高生の代わりに、航空業界を志望する大学生らが搭乗。飛行中の機内でCAが行うアナウンス業務などを体験した。CA志望だという女子大生の参加者は、「来年度は航空業界の採用が軒並みなくなってしまいましたが、やっぱり空の仕事がやりたい。再来年以降はきっと復活するし、希望はあると信じて就職活動を頑張ります」と語る。事実、ジェットスター・ジャパンの広報担当者によると、「夏は6割程度だった搭乗率も、現在は8割まで回復してきました」とのこと。

 需要90%減という大ピンチの中でも、それぞれの創意工夫でチャンスを見出そうと悪戦苦闘する人々。いま私たちが「Go To キャンペーン」を楽しめる裏には、歯を食いしばって苦境を乗り越えてきた彼らの知恵があったのだ。

週刊新潮WEB取材班

2020年10月12日掲載

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