「蛭子さん」が語る認知症との闘い 襲い来る幻視、麻雀をやめた後悔、奥さんへの感謝

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麻雀を“健康番組”に

〈ギャンブル好きの蛭子さんは「麻雀に行く回数が減ったから認知症が進んだんじゃないか」と話していたことも。〉

蛭子 そうですね、麻雀は好きですよ、本当に。回数が減ったのは世間体の悪さかな。麻雀をしている時は脳を使うから認知症予防にもなるはず。そういうことはやっぱり大事ですよ。麻雀番組に出演すると面白くて頭にもいいし、問題はないと思うんですけどね。2年ほど前までは結構出てたんですが、去年はもう全くなかったです。地上波の番組自体も減ってしまった。

 俺としては麻雀って“健康番組”にしてもいいんじゃないかって思うんですけどね。だけど、禁止のやつがあるじゃないですか、お金を賭けるやつ。それは俺、絶対やめます。そういうので捕まると、すべての運が尽きるような感じがします。そんなに悪いことじゃないのになぁ、って思いますけど、でも、捕まるものは捕まるわけですから、しょうがないですね。

 こないだも偉い人が賭け麻雀で問題になったのがニュースになってて、俺の名前もついでに記事に書かれたり。蛭子さんも過去にどうとかって……。

マネ その時は蛭子さんがかわいそうって声が上がりましたよね。その人は捕まってないのに、蛭子さんはそれより低いレートで捕まってしまったから。

蛭子 あー、そう! 俺は麻雀の連載もやってたので理屈ばかり言って抵抗してたんですよ、警察に対して。「麻雀は頭に良いはずだ」とか、警察の考え方とは、全く逆の方向のことをどんどん言ってたら、ダメでした(笑)。賭けるやつはやってないし、そうじゃない麻雀も減りました。でも、回数を減らさなければ、もう少し頭もしっかりしてたのにって思いますよね。

〈新型コロナウイルスの感染拡大が、闘病に良くない方向に働いている面もあるようだ。無趣味な蛭子さんには三つだけ趣味らしいものがある。映画、競艇、麻雀なのだが、コロナ禍の影響で一時はその三つとも自粛状態に。テレビのロケなども激減し、やることが無くなってしまった。〉

蛭子 コロナはめんどくさいなって思いますね。怖いってこともあるけど、なんでこんなに人が騒ぐのか。これに関してはよくわかんないな。意外かもしれないですが、以前から石鹸での手洗いとかうがいは徹底してるんです。ちょっと外出する時でも必ずマスクをつけるし。自慢じゃないですが、風邪で仕事を休んだことはほとんどない。

 むしろコロナで困っちゃうのは、認知症のお医者さんのところに満足に通えないこと。薬は飲んでいますけど、いまは病院に人が集まるからどうしても通うのが怖いんですよね。

 それでも俺はいままで通りに仕事がしたいので、健康には気をつけてます。なかでも、同じ病気の人にお勧めしたいのは散歩ですね。俺も散歩に行くことがめちゃくちゃ増えました。近所の公園に行くんですけど、散歩のコースとしても、歩く距離にしてもちょうどいいくらいで。目標は決めてませんが、だいたい30分程度で、距離にすると2キロくらいかな。とにかく毎日散歩してる。こんな話をすると、悲しくなりますかね……。でも、散歩してると景色もいいし、空気がすごく新鮮な気がする。公園にいっぱいいる子どもたちの動作が目に飛び込んでくる。子どもの動きってすごく面白いから、見るのが好きなんですよ。

マネ 歳をとると足腰が本当に大事なんです。蛭子さんの場合は、「バス旅」(「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」・テレ東系)のロケで歩いてきたことが間違いなく糧になってます。だって、あれだけツラい思いして歩いたじゃないですか、それがちゃんと生きてる。

蛭子 「バス旅」で歩くのはめっちゃくちゃツラかったです。もう本当に、いつもやめたいと思ってましたから(笑)。でも、そのおかげで、いま好きな公園まで歩いていけるんだから、分からないものだよね。散歩中に知っている人とすれ違って「あら、蛭子さん、大丈夫?」と言われたら、「大丈夫ですよ」と円満に答えて。声を掛けてくれてありがとう、と。そんな気持ちです。周囲に感謝しながらね。

「すまんやったね」

〈コロナ禍を機に蛭子さんの生活は穏やかなものに変わっていた。同時に奥さんに対する思いが強くなってきているようだ。この先、症状が悪化した場合、「誰に介抱してもらいたいか」を問うと、こんな答えが返ってきた。〉

蛭子 それは病院の先生です。そりゃ、女房が病室でずっと見ててくれれば一番ありがたいですけど。でも、それじゃ女房の自由を縛ることになるから。健康な人が自由を縛られるのって相当苦しいと思うんですよ。それだったらお医者さんのほうがいい。

 病気のおかげというのは変かもしれないけど、女房との時間が増えたことは本当にありがたいと思いますね。いま女房は自分の時間を捨てて、本当はもうちょっと好きなことをやりたいと思うんですけれど、その時間を俺のために使ってくれています。

 だから、とにかく女房の言うことを聞いて、女房の言うとおりに生きていきますよ。やっぱり女房にはちょっと悪いと思う、俺が早く死んでいくのが。だから、「すまんやったね」とか、死に際に言いたいですけれど、それを言えるかどうかは分かんない。死ぬほうが早かったりしたら言えないですしね。

マネ 認知症は死ぬ病気じゃないですよ。

蛭子 そうなんだ!?

マネ いま、その進行を抑えるために仕事したり散歩したりしているんですよ。

蛭子 そうだね。すぐに死なないようにできることをなるべくします。

〈念のためにもう一度、「ギャンブルはこれからも続けますか?」と聞いてみた。〉

蛭子 ギャンブルはもうやらないと思う。ギャンブルで使うお金があったら女房のほうに回さないといけないな、と。

――本当に奥さんへの思いが強いですね。

蛭子 え、そうかな。

――すごい愛妻家だと思います。

蛭子 そう言ったら怒られるかも。

マネ いや、愛妻家はいいんですよ(笑)。

蛭子 え!

マネ 怒られるのは恐妻家じゃないですか。

蛭子 あっ、そうか!

〈こんなトボケた答えで周囲の笑いを誘うのも蛭子さんらしい。認知症を患う人たちが、蛭子さんのように「ちょっと面白い人」と受け入れられるような社会になれば、誰もがもっと暮らしやすくなるのだろう。〉

取材・構成 鎮目博道(元テレビ朝日プロデューサー)

鎮目博道(しずめひろみち)
テレビプロデューサー・演出・ライター。1992年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画し、「AbemaPrime」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立。

週刊新潮 2020年9月24日号掲載

特集「『蛭子さん』がぼそぼそ語った…進行する『認知症』の恐怖に“ボケ”で対抗」より

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