「三浦春馬」最後のドラマ「カネ恋」 内容は素晴らしいけど笑顔が切なくて…

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 恋人でも友人でも家族でも、金銭感覚がある程度近くないと付き合うのは厳しい。数百万もする腕時計を欲しがる人、硬貨をお金と思わない人、手持ちの金をギャンブルで倍にしようと発想する人、自分で家賃を払ったことがない人、10円安いからといって遠くの店まで買いに行ったり、行列に並ぶ人、そして人の金を頼る人。浪費家も吝嗇家も嫌。節度を持った潔さってのが難しいところではある。

 金銭感覚と恋愛感情の天秤をポップに描いた「おカネの切れ目が恋のはじまり」を割と淡々と観ている。ケチではなく節約家、金の使い方が慎ましくて抑制的な女性が、金持ちのボンボンでナチュラルボーン浪費家の男性に、まっとうな金銭感覚を教える。このふたりを軸に、恋愛模様も描くラブコメディだ。世捨て人のような女性を演じるのは、野に咲く花のように地味だが、演技力はラフレシア級の松岡茉優。多部未華子・徳永えりと並んで、この手の地味系等身大女性をリアルに演じられる三大女優だ。札より硬貨が似合う。実に適役だと思う。そして、金遣いの荒さはもはや横領級のボンボンを演じるのは、笑顔が切なすぎる三浦春馬。

 ドラマで主人公がめちゃ広い家に住んでいたり、収入に見合わない生活をしていると「ん?」と思って、脳内電卓をたたく癖がある。しかも金の話をほぼしない作品だと、アームカバーをつけた脳内経理が暴れ出す。でもこのドラマでは細かく金額が提示されるので心安らかに観られる。「出張で776万使うってなかば横領だよね?」「5千円の弁当だと?!」「春馬の月給は38万円か!」「ポンデケージョ6個120円って安ッ」「20代で奨学金200万返済はキツイね」とか。

 松岡と春馬の金銭感覚のギャップで、単位は10円から数百万と幅はあるが、金額が明らかだと実に入りやすい。そして、奨学金200万返済に実家の工場の自転車操業、幼いきょうだいの学費まで稼がなければいけないのが北村匠海。賢い投資を勧める人気ファイナンシャルプランナーの三浦翔平。金にまつわるエピソードとキャラの立ち位置が明確なので気持ちいい。

 おもちゃメーカーの経理部の話なので、昨年の「これは経費で落ちません!」(NHK)の二番煎じかと危惧したが、こっちは恋愛を絡めた相性に焦点を絞っているので、よりパーソナル。感覚の差を「綻び」と呼び、清貧を目指す割に恋した男に貢ぎまくるバランスの悪さを松岡が、金銭感覚は壊滅的だが、人として、男としてのまっとうな感覚と優しさを春馬が体現している。

 経理部の面々(池田成志やファーストサマーウイカら)の暗躍も観たいし、八木優希や大友花恋といった次世代の若手女優の見せ場も欲しい。いつになく優しいフリをした原稿を書いた理由はただひとつ。彼のくしゃっとした笑顔がこれで最後だから。「わたしを離さないで」(TBS)と「オトナ高校」(テレ朝)が好きだったな。全4話と短いが、20代の俳優が割と多い作品でもある。彼は若手に託した。そう思うことにする。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年10月8日号掲載

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