中国の「ワクチン外交」は世界に災いをもたらす 安全性・有効性に問題ありでも日本に売り込み

国際 中国

  • ブックマーク

Advertisement

「開発中の新型コロナウイルス用ワクチンを日本にも提供したい」

 このように述べたのは、9月4日に北京で開催された展示会で、開発中のコロナワクチンを公開した中国企業である(9月4日付け日テレNEWS24)。

 中国は「マスク外交」に続き「ワクチン外交」で二匹目のドジョウを狙っている。

 中国は新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した今年2月に、世界各国にマスクと防護服など医療物資を送るいわゆる「マスク外交」を積極的に展開したが、中国の医療用品の品質の悪さが露呈し、恩恵に浴した国に対して中国への感謝を義務づけたことなどから、むしろ中国に対する反感を招いたとの指摘もある。

 これに懲りずに中国は友好国にワクチンを優先的に提供するという「ワクチン外交」を展開しているが、今度こそ中国は目論見通りの成果を得られるのだろうか。

 中国の李克強首相は8月24日に開催された第3回メコン川協力首脳テレビ会議で、「中国が新型コロナウイルスワクチンの開発を完成させ、使うようになれば、メコン川流域諸国に優先的に提供するだろう」と語った。これにより恩恵に浴するのはカンボジア、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムの5カ国である。

 だが中国指導者によるワクチン提供の約束は李首相が初めてではない。

 今年6月、習近平国家主席は中国・アフリカ防疫団結テレビ会議で「中国がワクチンを開発すればアフリカ諸国に率先して恩恵が届くようにする」と約束している。

 王毅外相も7月に開催された中国、アフガニスタン、ネパール、パキスタン4カ国外相テレビ会議で「中国のワクチンが容易に提供されるようにする」と述べている。

 中国のワクチン開発企業は、ブラジル、サウジアラビア、メキシコ、モロッコなどで第3段階の臨床試験を実施していることから、これらの国々もワクチンの優先提供を見返りとして要求している。

 中国の開発企業はワクチンの供給体制整備を急いでいる(8月28日付日本経済新聞)。シノパック・バイオテックは、北京市で3月末に着工した工場を7月に完成させた(ワクチンの年間生産能力は約3億回分)。カンシノ・バイオロジクスも天津市にある既存工場の敷地内に新工場を建て、2021年初頭の稼働開始を目指している(ワクチンの年間生産能力は1~2億回分)。中国全体の来年のワクチン生産能力は6億回分以上になる見込みである。

 世界で突出してワクチンの生産能力を拡大している中国だが、その需要は生産能力をはるかに上回る規模に膨らんでいる。世界経済フォーラムが8月下旬に行った全世界27カ国の成人約2万人を対象にしたアンケート調査の結果によれば、74%が「新型コロナウイルスのワクチンができれば接種する意向がある」と回答したが、中では97%と最も高かった。

 さらに中国は多くの国にワクチンを優先提供するとしており、その数を概算してみると、20億人分に達する(8月27日付中央日報)。これに中国の人口14億人を加えると34億人となり、世界の人口77億人の約半分に中国がワクチンを提供する計算になる。

 新型コロナワクチンは2回の接種が必要であることがわかってきたことも頭が痛い(8月31日付CNN)。34億人が2回接種することになれば68億回分が必要となるが、中国の開発企業の供給量(6億回分)はその10分の1に過ぎないからである。

 量的な制約に加えて、質的な問題を抱えていることも気がかりである。

 中国の開発企業のうち、カンシノ・バイオロジクスのワクチン候補「Ad5-nCOV」は、ベクター(遺伝子の運び手)に遺伝子組み換え操作で無害化したアデノウイルス5型(Ad5)を利用している。アデノウイルスは風邪を引き起こすウイルスの一種である。新型コロナウイルスが持つ遺伝子をAd5に乗せて体内に運び込み、実際にコロナウイルスに攻撃されたときに免疫反応を起こさせることができるようにしておくというわけである。カンシノ・バイオロジクスは、エボラ出血熱用のAd5由来のワクチンを開発した経験を新型コロナワクチンの開発に応用している。

 だが多くの人が既に抗体を持つ風邪のウイルスを利用して開発されているため、その効果を不安視する声が高まっている。専門家によれば、中国や米国では約40%の人々が既にAd5の抗体を持っており、アフリカでは80%に上ると言われている(9月1日付ロイター)。Ad5に対する抗体があると、免疫システムは新型コロナウイルスではなく、ベクター(Ad5)を攻撃する恐れがあり、ワクチンの効果が低下するからである。

 一部の科学者は、Ad5由来のワクチンがヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染リスクを高めることにも警戒感を示している。米メルクが2004年に行ったHIV向けのAd5由来のワクチンの臨床試験では、Ad5の抗体を持つ人のHIVの感染率が高まることがわかっているからである(8月31日付ロイター)。

 中国メデイアは9月1日、中国製のワクチンは使用後に重症化の可能性があると報じた。その原因はADE(抗体依存性感染増強現象)である。ADEとは本来ウイルスから体を守るはずの抗体が逆に細胞への感染を促進する現象のことである。中国では2万人以上が臨床試験に参加したが、多くの人が接種後に深刻な副作用に苦しみ、北京の病院で治療を受けているとの情報がある。

 このように、安全性・有効性などに問題を抱えたまま「ワクチン外交」を強引に展開すれば、中国は世界から猛反発を受け、ますます孤立してしまうのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。