ルール撤廃で34歳「田沢純一」をドラフトで指名する球団はどこか 巨人?日ハム?

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 10月26日のドラフト会議まであと2カ月を切ったが、ここへ来て、当日の指名に大きな影響を与えるニュースが飛び込んできた。NPBが今月7日に行われた実行委員会で、日本のドラフト会議での指名を拒否して海外のプロ球団と契約した選手は一定期間(高校生は2年間、大学生・社会人は3年間)、NPBの球団と契約できないという、いわゆる“田沢ルール”の撤廃を決定したのだ。

“田沢ルール”とは、2008年12月、新日本石油ENEOSに所属し、ドラフト1位候補だった田沢純一がレッドソックスと契約したことを受けて設けられたもので、有望選手の海外流出を防ぐ狙いがあった。

 今年7月から独立リーグの埼玉武蔵ヒートベアーズでプレーしている田沢自身もNPBでのプレーを希望すると表明し、“田沢ルール”の撤廃で正式にドラフト候補としての扱いを受けることになる。メジャー通算388試合に登板して21勝4セーブ89ホールドという実績は申し分ない。来年で35歳という年齢はネックとなるが、リリーフが手薄な球団は獲得を検討することになりそうだ。果たして、田沢を狙うべき球団はどこなのか、また、指名するとすれば、ドラフト何位が妥当なのか、現在の戦力や過去の指名傾向から探ってみたい。

 実は、海外のプロでプレーした選手が、ドラフト候補となるのは田沢が初めてではない。過去に似た事例で成功しているのが日本ハムだ。

 2004年のドラフトでは日本とオーストラリアの国籍を持ち、メジャーでも31試合に登板経験のあったマイケル中村(登録名はMICHEAL)を4巡目で指名。2007年のドラフトでも立教大卒業後に米国に渡り、インディアンスで通算15試合に登板して1勝をマークしていた多田野数人を“外れ外れ”ではあるものの、1位で指名している。MICHEALは1年目からセットアッパーとして一軍に定着すると、2年目には39セーブをマークして最多セーブのタイトルを獲得。日本ハムの在籍は4年間と短かったが、抑えとして見事な働きを見せた。

 一方、多田野も実働7年間で通算18勝と1位指名としては物足りない成績に終わったが、1年目には7勝をマークするなど即戦力という期待には応えている。また、ドラフトを経ての入団ではないが、巨人を3年間で戦力外となり、米国で結果を残した村田透も出戻りで獲得して一軍の戦力としている。そういう意味では、米国でのプレー経験者を受け入れやすい土壌が日本ハムにあると考えても良いだろう。

 また、現在のチーム状況を考えても、リリーフ陣で安定しているのは宮西尚生だけで、ブルペンの立て直しは大きな課題の一つである。過去の成功事例を考えても、田沢の獲得に動いても全く不思議はない。

 海外で実績のある投手をドラフトで指名した球団という点では、オリックスも当てはまる。日本の高校を中退して米国に渡り、メジャー通算16勝をマークした実績を持つマック鈴木(本名・鈴木誠)を2002年のドラフト2巡目で指名している。

 しかし、1年目に4勝をマークしたが、防御率は7点台に沈み、翌年にはさらに成績を落として、わずか在籍3年で戦力外となっている。もちろん鈴木と田沢を単純比較することはできないが、このような失敗経験が田沢の指名にブレーキをかけることは十分に考えられる。また、オリックスのチーム事情を見ても、防御率は芳しくないものの、スピードのある若手ピッチャーは比較的揃っており、補強ポイントにもマッチしているとは言い難く、指名の可能性は低いのではないか。

 即戦力のリリーフが必要な球団ということでは、西武も該当する。獲得への追い風となりそうなのが、今年国内FA権を獲得したクローザーの増田達至の去就問題だ。実績と現在の実力を考えても、FA権を行使すれば争奪戦となることは確実で、これまでも多くの主力が抜けてきたことを考えると、残留の可能性は決して高くない。35歳以上のベテラン投手は松坂大輔と内海哲也がいるが、ともに先発タイプであり田沢と役割が重なることはない。来季以降、増田が抜けることを考えて、指名に踏み切る可能性はある。

 もう1球団、田沢指名の可能性がありそうなのが巨人だ。先日の編成会議後には即戦力の野手を最優先に考えていると明かしているが、同時に即戦力投手の必要性にも触れている。先日、電撃トレードで沢村拓一をロッテに放出したことは、ベテランのリリーフ陣の枠を一つ空けるためとも考えられる。レッドソックスで同僚だった上原浩治の“後釜”としても最適な人材だ。

 最後に田沢の指名順位についても考えてみたい。

 過去の例では多田野が1位、鈴木が2位、MICHEALが4巡目ながら当時の制度により実質は3位と高い順位で指名されている。ただ、指名当時に多田野と鈴木が27歳、MICHEALが28歳だったのに比べて、田沢は34歳と既にベテランの域に差し掛かっている。一軍の戦力として活躍できる年数が短くなる可能性が高い選手に、貴重な上位の枠を使うことは考えづらい。

 とはいえ、日本球界は意外なところで温情や実績に対する敬意が働くことも少なくない。メジャーでの経験へのリスペクトと、“田沢ルール”とまで呼ばれたルールを制定したことへの申し訳なさから、あまり低い順位では指名しづらいという事情もありそうだ。こうした点を考慮すると、3位から4位程度というのが妥当ではないだろうか。

 最終的にどうなるかは当日の流れに大きく左右されるが、これだけの実績のあるベテラン選手が、ドラフト対象になるというのは過去に例のないことである。ある意味で、今年のドラフトで最も注目を集める選手となりそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月14日掲載

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