“量産型”刑事ドラマの3倍濃くて深い「MIU404」 社会への揶揄とエンタメが両立する良作!

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 深煎りのコーヒー豆が好きだ。色も、挽いたときの香りも濃いヤツ。酸味と苦みのバランスとか、繊細なことは正直よくわかっていない。美味しいと感じるのはとにかく深くて濃いヤツ。

 今夏のドラマで、最も深煎り感が高いのは「MIU404」だった。一瞬、手垢のついた刑事バディモノに見えたが、想像を超える濃厚さに毎回驚いた。何が濃厚って、加害者あるいは犯人が犯行に至るまでの経緯や背景がとにかく濃い。説明文ではなく、端的なセリフで見せる感情のしこり、手の込んだ異種の勧善懲悪。すごいよ。1時間枠の1話完結ドラマでこんなに深掘りできるのかと驚きっぱなし。それでいて冗長ではないし、テンポもいい。社会や世間に対する苦言もきっちり言霊に載せられている。

 刑事ドラマに何を求めるかによって好みは分かれる。安定の茶番とお決まりの勧善懲悪、わかりやすい犯人と展開で一件落着を求める人には勧めない。ぜひアメリカンコーヒーをどうぞ。

 この深煎りの世界を率いるのは、声を張ると一瞬武田鉄矢風、二の線でも三の線でもない曖昧さが持ち味の星野源と、男社会では真っ先に抹殺されそうな直感優先の軽妙さと足の速さを誇る綾野剛のバディ。急ごしらえの第4機動捜査隊だ。メンバーは、警察組織内で波風立てずに立ち回れるいぶし銀の橋本じゅん、お偉いさんの息子でエリートぼんの岡田健史、隊長は男社会でも腐らず冷静、常に対等でまっとうな感覚の麻生久美子。上層部の無自覚の差別発言には毅然と反論して正す姿が頼もしい。上司にしたい女ナンバーワンだ。

 初回で車両(車体番号404)を大破し、代車がラブリーなメロンパン販売カーという間抜けさだが、意外と擬態可能。有能だが他部署から虚仮(こけ)にされとるバディにぴったりでもある。

 第3話から本格的かつ最終的につながっていく大きな流れ(菅田将暉が暗躍)も興味深いが、私は第4話に胸を射抜かれた。ヤクザに搾取され続けた女(美村里江)が見事な復讐劇を単独で完遂する物語。横領事件の犯人ではあるが、ヤクザの汚れた金を浄化する最適な方法を見つけ、自分と同じ思いを少女たちにさせないために命を賭した。悪いことをした政治家や役人は決して捕まらず、警察は数の理論と大義名分でしか動かない。弱い人間が搾取され続ける現代日本を揶揄しつつ、奇想天外な展開。悲劇だけれど明るい。美村の笑顔がすべてを語る。鳥肌が立った。さんざんくさしてきた刑事ドラマだが、一筋の光が見えた気もする。

 第2話の殺人犯(松下洸平)は父権社会の副作用、第5話のコンビニ強盗主犯(渡辺大知)は政府主導の外国人研修制度の欺瞞と傲慢を暴露、第7話にはホームレス(塚本晋也)の心の声。多様性と批評性がある設定は、地に足つけて同じ風景を見ている安心感も(願望だけ描く絵空事ドラマも多いので)。どことなく視点がNHKのドキュメンタリー。そこにエンタメ性と言霊を載せ、口内にちゃんと苦みを残すのだ。良質な深煎りの味わいに感嘆している。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年9月10日号掲載

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