郵便局網を使って地方を活性化させる――増田寛也(日本郵政株式会社取締役兼代表執行役社長)【佐藤優の頂上対決】

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郵便局の可能性

佐藤 かんぽの問題が一段落したら、いよいよこの巨大な組織の舵取りをしていくことになります。

増田 私が総務大臣に就任した時は、管轄するのが総務省郵政行政局でしたが、いまは郵政行政部になりました。行政としてはどんどん縮小し、会社は会社で自立してやってくれ、ということです。

佐藤 それなら思う存分やれますね。

増田 いま郵便局は全国で約2万4千局あります。これは非常に貴重なネットワークです。でもその一方で、やはり無駄なところもある。実は郵政関係は、行政改革の定員削減の波に直接洗われてはいないんです。

佐藤 そうでしたか。

増田 2001年に中央省庁再編で郵政省と自治省と総務庁――前の行政管理庁――が一緒になって、総務省が誕生しました。この時、郵政関係は郵政事業庁という外局になります。それが日本郵政公社という特殊法人になって、そこから民営化しました。民間会社になれば、行革の波は及びません。だから無駄な部分があれば、自力で削いでいくつもりです。

佐藤 それには抵抗もあるでしょうが、増田さんも外から来てしがらみがないからやりやすい。

増田 知事を務めた岩手県もそれまで暮らしたことがなく、しがらみはありませんでした。大きな改革は、しがらみがあればできません。外部からの冷静に見る立場を生かせれば、解決もしやすくなります。

佐藤 ただ、地域ということを考えると全国2万4千局は非常に重要な拠点ですよね。

増田 その通りです。

佐藤 私の母は沖縄県の久米島出身ですが、島には銀行が一つしかありません。二つあるコンビニでATMは使えます。でもやっぱり中心になっているのは郵便局です。

増田 いま、地方自治体がどんどん支所を整理して本庁に機能を集約しています。だから地域によっては非常に不便な場所が生まれている。その中で最後まで残るのは郵便局だと思います。だから単に局の数を減らすのではなく、AIやロボティクスで集配網を高度化する一方で、地域に必要なサービスを取り扱う拠点にできないかと考えています。

佐藤 日本の共同体を再建していく上で、郵便局のネットワークは非常に大切です。地方の過疎地などにとっては重要なインフラになりえます。短期的な経済合理性だけでなく、中長期的な視点で考えないと、失うものが大きくなる。

増田 岩手県の豪雪地帯である沢内村(現西和賀町)に「スノーバスターズ」という雪かきボランティア事業があります。高齢化が進んで屋根の雪下ろしができなくなった方の家に、都会や近隣の若者がやってきて雪かきをする。郵便局がこうした事業を直接手がけることはないにしても、地域の困りごとがあったら気軽に相談できて、ある程度は解決方法を提示し、どこかへ仲介できるようにする。もちろん、切手やはがき、金融商品の販売が基本ですが、地方自治体の仕事の一部を引き受けることなども含め、地域の問題を親身になって考える身近な存在になっていきたいですね。

佐藤 例えば、高齢者の見回りなどもできるわけですよね。高齢化の進んだ過疎地の家も、配達を通じて細かく見ているわけですから。

増田 そうですね。それは東京でも同じです。私は新宿の都立戸山高校出身ですが、すぐ近くの団地は空き家ばかりとなって、住人の高齢化も進んでいる。2、3カ月に1人は孤独死が出るそうです。そういう場所に配達したり、年金の受け渡しなどで接するのは、郵便局員です。そこでできるだけ丁寧に応対していくのは、私たちの役割です。

佐藤 地域の情報をきめ細かく持っているという点では、郵便局は情報産業でもあります。

増田 その地域に根を下ろして住んでいる各地の郵便局長は、地域住民の生活から企業の活動までをずっと見てきました。彼らが世襲制だといった批判もありますが、そこに溶け込んでいるがゆえに得られる情報は貴重です。これまでアナログ的に蓄えられてきたその情報を、きちんとデジタル化の中に取り込んでいけば、地域の活性化を進めていく上で大きな資産になります。

佐藤 昔、特定郵便局と呼ばれた局の局長ですね。歴史的にはもともと地元の名士や大地主が私財を投じてなりました。

増田 そうです。郵便局が地域の中心なのは、戦前から続いていることです。

佐藤 その点では、戦前に地域を支えた郵便局という役割に戻っていくという見方ができますね。

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