「DeNA」の助っ人はなぜ当たりが多いのか? チーム戦略部長が明かす“IT系獲得戦略”

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 獲得した外国人選手の活躍が、そのシーズンの行方を占うといっても過言ではないプロ野球シーン。近年、その分野において成功していると考えられるのが横浜DeNAベイスターズだ。

 優勝には届かないまでもAクラスの常連になりつつある昨今のDeNAは、入団6年目になるホセ・ロペスを筆頭に、2年連続本塁打王のネフタリ・ソト、中継ぎ投手として欠かせない存在であるスペンサー・パットン、エドウィン・エスコバーらを擁し、さらに今季はメジャー33本塁打の長距離砲であるタイラー・オースティンを獲得している。

 もちろん、期待されて入団しても思うような結果を出せず去っていく外国人選手はいるが、DeNAは活躍する選手の事例がここ近年多く見られている。

 その要因となっているのはなにか?

「外国人選手獲得に関し、我々は“ブレンディング”という手法をとっています」

 プロ野球の世界ではあまり聞き慣れない言葉。こう語るのはDeNAの外国人選手獲得を担当するチーム戦略部長の壁谷周介氏である。

「まずはスカウティングの目とアナリティクスを融合させ、選手獲得の決断をしています」

 まずスカウティングであるが、現在DeNAの国際担当スカウトは、ルイス・ロペス氏(元広島・ダイエー)とグレッグ・ハンセル氏(元阪神)が務めており、マイナーリーグである3Aを中心に全米をフォローしている。

 そしてアナリティクスであるが、これはトラックマンデータなど選手の詳細データから日本の野球に適性があるか分析し、判断する手法だ。ITの分野に特化した親会社を持つDeNAならではの施策といえるだろう。

 これらを融合した手法が“ブレンディング”なわけだが、そしてもうひとつ、壁谷氏によればもっとも肝心なのは選手本人との面接なのだという。

「大事なのはハングリー精神で、そこを一番に見ています。例えば、アメリカで実績のある外国人選手は日本の野球を見下したり、お金のためだけに契約することがあります。そこで必ず面接をして、なぜ日本でプレーしたいのか訊くことにしています」

 日本の野球をよく知るスカウトの目とデータ分析、そして人間性。ここまで細かく見る目的は、もちろんチームに違和感なくフィットして活躍してもらうというのが第一ではあるが、それ以外にコストと持続性という面もある。

チームのウィークポイントを洗い出し、それに見合う選手を探すのが外国人補強の基本だが、金銭を掛ければ実績のあるメジャーリーガーを獲得することも可能だ。しかし、それではあまりにもコストが掛かりすぎる。できれば金額的に安く獲得でき、日本の野球を素直に受け入れ、潜在能力の高い選手が欲しい。そういう意味では、一時期メジャーに昇格したがその後マイナーで苦しみ、日本に新天地を求めて見事に開花したソトは好例といえるだろう。

 その観点から注目したいのが、今シーズン入団し、8月20日の広島戦で先発投手として初勝利を挙げたマイケル・ピープルズだ。多彩な変化球を操る技巧派だが、ピープルズが特異な点は、一度もメジャーへの昇格経験がないことだ。通常、日本に即戦力として来る投手は、一度はメジャーの経験をしている場合が多い。つまり、ピープルズは見方を変えれば発展途上の選手であり、その獲得の経緯を壁谷氏は次のように教えてくれた。

「ピープルズは国際担当スカウトのロペスから推薦のあった選手です。たしかに彼はメジャーに昇格したことはありませんが、クリーブランド・インディアンスの傘下である3Aコロンバスで10勝を挙げています。昨年、アメリカで編成部長の進藤達哉さんとピープルズの登板をチェックしましたが、非常にコントロールがまとまっており、カットやツーシームといった手元で動くボールに加え、チェンジアップ、ナックルカーブなどゴロを多く取れる日本向きのピッチングをしていました。考えてみれば、3Aであれだけの成績を残していてメジャー昇格できていないのはおかしいのですが、当時のインディアンスは先発ローテーションが安定しており、付け入る隙がありませんでした。そういう意味では、掘り出し物の選手ですね」

 推定年俸は3500万円。低コストで有望な選手を契約するに至ったが、交渉の際、球団は正直に現状を伝えている。ピープルズはあくまでも“第6の外国人選手”だと。今季はコロナの影響から特例で外国人枠が5名(試合出場は4名まで)に拡大したが、外国人選手のレベルが高いDeNAにあってピープルズは厳しい立場となる。

「チャンスはあるが一軍のローテーションが保証されているわけではない、とピープルズには言いました。それでも彼は構わないと。ある意味、メジャー経験がないほうがハングリー精神は旺盛ですし、モチベーションも高いので、意思疎通がしやすいといった面はあります」

 もともと「侍」など日本の文化に興味あったピープルズにとって、厳しい条件であっても日本行きは魅力的だったという。礼儀正しく、感情的になるようなこともない性格の持ち主であり、今後どれだけフィットしてくるか楽しみだ。ソトもかつては内野のバックアップ要因として入団しているが、実力を示すことでレギュラーの座を奪っている。そこは日本人選手と同様、結果を出すことができれば未来を変えることができる。

 一般的にチーム編成というのは3~5年後をイメージし、ドラフトやトレード、育成などをやっていくものだが、外国人選手もまた時間をかけスカウティングしている。例えば2018年に入団したソトは2014年あたりからマークしており、また今季入団したオースティンも2015年からチェックリストに入っていた。壁谷氏は言う。

「即戦力になる選手は、平均して3年後ぐらいをイメージしてスカウティングをしています。もう一方で育成にも取り組んでおり、そこはだいたい5年先を見ている感じですね」

 DeNAは2018年から提携するアリゾナ・ダイヤモンドバックスの施設を借り、ドミニカ共和国でトライアウトを行っている。現在、20代前半の3選手と育成契約をし、ファームで研鑽を積ませている。

「即戦力の獲得と選手育成を今後の外国人選手戦略の両輪にしていきたいですね」

 そして最後にひとつ、外国人選手活躍の裏には今年で就任5年目となるアレックス・ラミレス監督の影響も大きいと考えられる。外国人登録選手として初めて2000本安打を達成した日本の野球を知り尽くした人間であり、誰よりも的確なアドバイスができる。かつてソトはラミレス監督について次のように語っている。

「日本に来て最初のボスがラミレス監督でよかったと思っているよ。いいときも悪いときも変わらず声をかけてくれるし、すぐにコミュニケーションが取れることは、すごく助かるというか、僕らにとってはとてもやりやすい環境なんだよ」

 今シーズンは離脱や好不調の波が激しいDeNAの外国人選手たちではあるが、間違いなく言えるのは、彼らの活躍なしに22年ぶりのリーグ優勝、日本一は成し得ないということだ。そして彼らの成功を誰よりも願っているのが、壁谷氏などフロントや裏方の人間たちである。

石塚隆(いしづか・たかし)
1972年、神奈川県生まれ。プロ野球などスポーツを中心に、社会、サブカルチャーなど多ジャンルにわたり執筆するフリーランスライター。『Number』をはじめ『週刊プレイボーイ』『web Sportiva』などに寄稿。現在『Number web』にて横浜DeNAベイスターズに関するコラム『ハマ街ダイアリー』を連載中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月30日掲載

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