「中学スマホ持ち込み」容認へ 87%の学校が反対、悪影響は?

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 自らがスマホに毒されていない、と胸を張って言える人はどれだけいるだろうか。

 家から駅まで歩きスマホ。電車内ではネットサーフィン。会社では隙を見つけてLINE。家に帰っても家族と話もせず、YouTube視聴……。程度の差はあれ、それが現在の世相というものであろう。

 確かに便利で、楽しい。しかし、さまざまな弊害は周知の通り。大人ですらスマホ漬けの現状だから、子どもには、せめて子どもであるうちだけは、可能な限り距離を取らせたい……これが常識的な感覚というものではないだろうか。

 しかし、7月末日、文科省は全国の教育委員会などに、「学校における携帯電話の取扱い等について」なる通知を出した。そこには、これまで「原則禁止」だった生徒の中学校へのスマホ持ち込みを、事実上、容認する方針が示されているのだから、熱中症でなくても、頭がクラクラしてしまうのである……。

 文科省は2009年に、携帯の取り扱いについて通知を出している。そこでは、中学校への携帯の持ち込みを原則禁止とし、やむを得ない事情がある生徒については、保護者が学校へ申請した上で例外的に認めていた。至極まっとうな内容だが、何があったのか。

「児童や生徒を取り巻く社会環境の変化を受けたものです。児童や生徒の間で携帯電話の普及が進んできました」

 と説明するのは、文科省児童生徒課の担当者。

 中学生の場合、約67%がスマホ・携帯を所持ないし利用しているという調査がある。

「また、災害や犯罪に巻き込まれた際など、登下校時、緊急時の連絡手段として携帯を用いることへの期待も高まってきました。さらに、大阪北部地震を受け、昨年、大阪府でも中学校において、持ち込みを認めるガイドラインを作っています。こうした変化を踏まえ、10年前に出した通知を見直すべきではないか、という議論が起き、昨年5月、有識者会議を設置しました」(同)

 その「学校における携帯電話の取扱い等に関する有識者会議」は、計10回の議論を重ね、そして出た結論がこの7月の新しい「通知」となったのだ。

 より正確に言えば、通知は中学校について、持ち込みの「原則禁止」は維持している。が、その上で、各教育委員会や学校がOKと判断する場合は、「使用ルールの作成」「管理方法や紛失時の責任の明確化」「フィルタリングの設定」「携帯の危険性などの指導」という「4条件」を守ることを求めている。つまり、これまで各保護者が個別申請するごくごく例外的だったものを、努力規定のような「4条件」を満たせば、学校や教育委員会単位でOKに。よって、新聞各紙には、〈中学スマホ容認 了承〉(読売)〈中学へ携帯持ち込み 容認〉(朝日)などの見出しが躍ったというわけである。

 生徒がスマホから唯一離れることができる聖域・中学校への持ち込み容認。これを聞いて、

「何考えてるんだ!と思いますよ」

 とため息をつくのは、神奈川県内の公立中学校で教鞭をとる現役教師である。

「これまでスマホの取り扱いには苦労させられてきました。持ち込みでそれが増えると思うと……」

 持ち込み可となれば、現場レベルでは二つの対応が考えられるという。ひとつは、生徒自らにカバンなどに保管させ、電源を切らせる。もうひとつは登校後、全員分を預かり、職員室などに保管。下校時に返却するというものである。

6千万円分を管理

 しかし、

「前者の場合なら、中には、電源を切らずに隠し持って授業中に使う生徒が出てきますよね。そうでなくとも、休み時間や放課後に教師がいなくなれば、バッグから取り出して触りだすのは目に見えている。今でも、学校に内緒で持ってきて、授業中、こっそり他クラスの生徒とLINEをする、あるいはゲームをする子はいる。教師や友達の変な写真を隠し撮りして、SNSで回し合い、いじめに発展するなんてことがあるんです。原則禁止の状態でさえそうなのに、この上、みんなスマホを持ってくるなんてことになると、生徒指導の負担がどれだけ増えるのか」(同)

 他方、後者の「預かり制」にしたらしたで、今度は別の負担が伸(の)し掛かる。

「1台10万円もするものを毎日管理するのはプレッシャーがすごい。もし無くなったり、取り違えたり、傷つけたりすれば、親御さんが血相を変えて怒鳴り込んで来ますから。うちの学校は生徒数600人ですから、学校全体で6千万円分……。専用の金庫を買ってほしいですが、そんな予算はありませんからね。しかも個人情報のかたまりです。それに、部活で遅くなる生徒にはどうやって返すのか。そこまで“残業”しなければならないのか」(同)

 さらには、登下校中も懸念だらけだ。

「どうせ『歩きスマホ』をする。事故に遭わないか、近所から“危ないじゃないか!”とクレームが来ないか……。それも指導しなければいけないとなると」(同)

 流行りの「働き方改革」はどこへ行った?と聞きたくなるほどの負担増である。

「教師の苦労が増えるのはもちろんですが、困り果てる親も出てくるでしょう」

 と言うのは、北海道内の公立中学校の関係者である。

「スマホは料金も安くないですし、勉強の邪魔になる。本音は持たせたくない親も多い。そんな親にとって、子どもからスマホが欲しい、と言われた時、“学校が持ち込み禁止だから”と言うのがひとつの手でしたが、それが使えなくなる。いい迷惑になるんじゃないでしょうか」

 高価なスマホを持たせられる家庭と、安価なものすら難しい家庭との「格差」も浮き彫りになる。

「これまで、学校は勉強する場、関係のないものは持ってくるな、と教えてきました。その努力は何だった?と思いますよ。余計なことをしてくれるな、という感じ。最前線で働いている兵士の背中を鉄砲で撃つような通知ですね」(同)

 この他にも、

「率直に言って、善悪の判断が未熟な中学生にはまだ早い」(大阪府内の私立中学校講師)

「今度は小学校でも、という議論が出てきそうで恐ろしい」(愛知県内の公立中学校教員)

 などなど、聞けば聞くだけ反対の大合唱。こうした現場の声に耳を傾けずに、文科省と有識者会議が変更を決めたとすれば、とんでもない話だが……。

 否。

 有識者会議では、「ヒアリング」として、さまざまな関係団体のメンバーを招き、「持ち込み」に対する意見を聞いている。その中身はすべて文科省のHPに議事録としてアップされているが、実は、そこも懸念の声で溢れていたのである。

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