「血液」「尿」1滴で「がん検査」が可能に 最新検査を受けてみた

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血液1滴で検査

 血液1滴によるスクリーニングもまた、大いに耳目を集めている。目下、血中に含まれる「マイクロRNA」(リボ核酸)に着目した早期発見法の開発が各所で進んでいるが、いち早く実用化に踏み切ったのが、広島大学と同大発のバイオベンチャー「ミルテル」社である。現在、確認されているだけでマイクロRNAはおよそ3千種類。がん細胞が出現すると、特定の配列を持ったマイクロRNAが血中へ多く分泌されるため、その有無で判別できるという仕組みだ。同社が開発したミアテストは、全国およそ200カ所の医療機関で受診可能である。

 こうした検査は13年から臨床に導入され、乳がんと膵臓がん、そしてアルツハイマーについて、それぞれ5種類のマイクロRNAの数値を用いてリスク判定がなされてきた。また、単独検査のほか「ミアテストプラチナ」という15種類のがんとアルツハイマーから3項目以上を選択する検査も可能である。

 ミルテル社の創業者である広島大学大学院医歯薬保健学研究科の田原栄俊教授によれば、

「がん細胞は、唾液や血液などに含まれている『エクソソーム』という小胞にマイクロRNAを載せて体内に送り出しています。がん細胞が大きくなると血管を破って血流に乗り、他の臓器に転移しようとしてこのエクソソームを使うのです。ミアテストでは、こうしたがん細胞の習性を利用し、血液から特有のマイクロRNAを見つけるわけです」

 とのことで、

「血液1ccには100億個のエクソソームがあります。約0・2ccの血液から血清、血しょうを採取し、そこからNGS(次世代シーケンサー=遺伝子の塩基配列を高速で解読する装置)で網羅的にRNAを読み取っていきます。私どもはがんの部位ごとにマイクロRNAのデータを持っていて、全部で10万件ほどになる。そのため、部位別の検査が可能なのです」

 本誌の50代後半男性記者は今回、「膵臓がん」「肝臓がん」「胆のうがん」の三つを選択。提携先の東京駅八重洲口近くにある「東京国際クリニック」で受診した。採取した血液は広島のミルテル社に送られ、4週間ほどで結果が出るという。高橋通医科院長に聞くと、

「一般に血液を使ったがん検査は、例えば前立腺に特有のたんぱく質がどのくらい含まれているか調べるPSA検査がありますが、これは他のがんには応用できません。そもそも腫瘍マーカーは、早期発見にはあまり期待ができないのです」

 としながら、

「ミアテストは複数のがん検査が一度にでき、早期発見につながるのが大きな特徴。企業の健康診断などでは通常、おもに3大がん(肺・胃・大腸)を重点的に調べ、膵臓や胆のうは超音波検査があるとはいえ、小さながんを見つけるのは難しい。特に膵臓は発見した時点で進行しており、手遅れになることが多いのですが、その点でミアテストは、普段なかなか診られない部位のリスクを早期に見つけ出すことが可能です」

 肝心の記者の検査結果は、ABCDと4段階あるリスクのうち肝臓がA(最も少ない)、膵臓と胆のうはB(2番目に少ない)であった。先の田原教授が言う。

「AやBの方は現状ではがんのリスクが低く、安心して頂いて構いません。一般にハイリスクとしているのはCとDの判定が出た方で、偏差値の考え方と同じく、このグループにはがんを持っている人が多いと考えられます。ただし、がんが見つかったのではなく、がんが出すマイクロRNAを多く検知したということです」

 ハイリスク判定の場合、経過観察やさらなる個別部位の検査による確定診断が望ましく、

「1センチ以下のがんを見つけられれば大いに意味があります。肺がんはステージ1で5年生存率は8割を超えますが、ステージ2だと4割に下がる。リスクの高い部分を早く特定することが重要なのです」

 まさしく備えあれば憂いなしである。

 さて、同じ血液でも全く異なるアプローチで「超早期発見」に貢献している技術がある。神戸市のバイオベンチャー「マイテック」社が開発した「プロテオチップ」は免疫細胞に着目、わずか3分でがんのリスクを診断できるのだ。

 がん細胞が出現すると、体内の免疫細胞が反応し、攻撃に転じる。この時、がんの死骸の一部であるたんぱく質「ヌクレオソーム」が血中に流れ出すのだが、同社の長谷川克之氏は、

「私たちは、このヌクレオソーム同士を結合させて光らせる『過酸化銀メソ結晶』を開発しました。そして、これを銅合金に固定したのがプロテオチップなのです」

 ここに血液の血清を塗り、紫外線を当てる蛍光顕微鏡で覗く。強く光っていればヌクレオソームが結合しているということで、つまりはがんのリスクが高いことを意味する。

「検査では膵臓がん、肺がん、胃がんなど固形がんについて、ABCの3段階でリスクスクリーニングを行います。がんに関連するヌクレオソームの面積が2万平方マイクロメートル未満はA判定。それ以上はBで、さらに3万以上はCと、最もリスクが高い判定になります」(同)

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