京都ALS嘱託殺人が過去の事件と“まるで別物”と批判される理由

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過去の安楽死事案とは別物

 林優里さんが病苦から「安楽死」を望んだことは確かだが、過去に安楽死事件として議論になったケースとはまるで別物だろう。

 日本では法律的に安楽死が認められていないが、末期がん患者に塩化カリウムを投与して殺人罪に問われた医師の裁判において、1995年横浜地裁判決で(1)死が避けられず死期が迫っている(2)耐えがたい肉体的苦痛がある(3)苦痛を除く方法を尽くした(4)患者本人が安楽死を望む意思が明らか、の要件すべてが満たされた場合を例外的に認めている。京都府警は今回の逮捕理由として4要件を満たさず、二人は主治医ではないことなどを挙げる。

 06年、富山県の射水市民病院で7人の末期患者の呼吸器が外されて死亡したことが発覚した。伊藤雅之外科部長が取り調べられ大騒動になった。筆者は騒動直後に伊藤医師にインタビューし、当時の「月刊現代」に書いたことがある。殺人罪で書類送検された伊藤氏は不起訴となり後年亡くなった。安楽死をめぐり警察が動いたのはこの件以来だ。

 呼吸器を外されて苦しんでいた患者に筋弛緩剤を投与して死なせたとされて02年に殺人罪で逮捕・起訴され有罪となった川崎協同病院(神奈川県)の須田セツ子医師のインタビューも「婦人公論」に書いた。誤解も生じたとはいえ、いずれも加害者となった医師は患者や家族と密接に接していたが、今回の二人の医師は林さんと密に接したわけではなく家族の同意すら取り付けていない。

「京都の事件をきっかけに安楽死論議が高まるだろう」との声もある。対象が、がんなどに限定され、ALSが対象外になっていることなど議論があろうが、事件自体は尊厳死・安楽死論議とは次元の違う悪質さだ。

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