「半沢直樹」がいよいよ放送開始 新たに登場する演劇界のスター5人の横顔

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 「半沢直樹」(日曜午後9時)の続編が19日にスタートする。7年前の前編が大成功した理由は何か? その一つは半沢役の堺雅人(46)をはじめ、確かな演技力を持つ演劇人を多数起用したことに違いない。続編にもやはり演劇界のスターたちが登場する。

 7年前に「半沢直樹」が大成功を収めた理由の分析は無数にあるが、最大の成功要因は主演に堺雅人を据えたことにほかならないだろう。

 堺は早稲田大在学中の1992年、同大演劇研究会のメンバーたちと劇団「東京オレンジ」を旗揚げ。すると、突出した演技力によって、たちまち学生演劇界のカリスマ的スターになった。

 堺以外を半沢役に据え、大成功できたとはちょっと考えにくい。堺は知的で爽やか。クールなところもユーモラスな一面もあり、半沢のイメージとぴったり合致する。なにより演技力が図抜けている。

 堺ならではの名演を簡単に振り返りたい。

 まず前編の第5話で半沢は自分を嵌めた「東京中央銀行」大阪西支店長の浅野匡(石丸幹二、54)と対峙した際、当初は冷淡な口調で話していたものの、浅野が泣き言を口にした途端、「甘えたこと言ってんじゃねえぞ! 家族がいるのはお前だけだとでも思ってんのか!」と、声を荒らげた。ヤクザ映画のスターも顔負けの迫力だった。

 あ然とするような瞬時の豹変。難しい演技だったはずだが、一流演劇人の堺だから事もなげにやってのけたのだろう。演劇では登場人物のキャラクターが突然180度変わることも珍しくないのはご存じの通りだ。

 石丸も元「劇団四季」の大スター。まるで一流の演劇人同士が真剣勝負をしているような場面だった。

 やはり演劇人で、堺とは旧知の仲なのが、京橋支店融資課課長代理・古里則夫役を演じた手塚とおる(58)。

「劇団シェイクスピアシアター」や「劇団健康」などで活躍していた手塚は、まだ早大生だったころの堺と舞台で共演している。今は「グランメゾン東京」(TBS、2019)の江藤役など意地悪な役が目立つ手塚だが、若き演劇人時代はイケメンの大スターだった。

 前編の出演を手塚が引き受けると、堺は「ありがとうございます。楽しみにしています」と丁寧なメールを送った。本音だろう。ドラマでは初共演だった。久しぶりに技量を競い合いたかったのではないか。

 実際、この2人による場面は傑作だった。緊張感の連続だったストーリーの中で、ショータイムのコメディのように映った。

 半沢に対して終始強気で嫌味だった小里が、半沢に不正を発見されると、急変した。まるで鷹の前の雀に。逆に半沢は悪魔のような男に変身し、容赦なく古里をいたぶった。ここまでキャラクターを切り替えられるのは2人とも本当にうまいからだろう。

 手塚と一時期、「劇団シェイクスピアシアター」で一緒だったのが吉田鋼太郎(61)。今や演劇界の重鎮だ。前編では6話から東京本部営業第二部長・内藤寛役で登場。ドラマを引き締めた。

 最終回で内藤は半沢に対し、一部経営陣が半沢の出向を画策していると耳打ちした後、やにわに「なんとか乗り切れ!」と大声を張り上げた。まるで舞台上のセリフまわしだった。メリハリが利いていた。

 ベテランのドラマディレクターなら誰もが嘆くことだが、近年のドラマは演技指導やリハーサルの時間が十分に取れない。映画各社も専属俳優・女優という制度を解消し、自前で役者を育てなくなった。

 そんな時代なので、稽古に明け暮れている演劇出身の役者は強い。おまけに演劇はドラマと映画とは違い、カメラワークに頼れない。セリフに詰まった時に待ってカメラを止めてもらうわけにもいかない。おのずと鍛えられる。

続編に登場するスターたち

 19日からの続編にも演劇界のスターたちが新たに参戦する。ご紹介したい。

■池田成志(57) 半沢が出向し、営業企画部部長を務める「東京セントラル証券」次長の諸田祥一役。やはり出向組で、プロパー社員を下に見ている。親会社の人間というだけで態度が大きくなるのは摩訶不思議な話だが、現実もそうなのはご存じの通り。

 年下の上司である半沢の命令にも逆らうらしい。憎まれ役として注目を集めそうだ。

 池田は早大在学中に「第三舞台」に参加。演出も手掛ける。2013年には紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した実力者だ。

■土田英生(53) 役柄はIT企業「電脳雑伎集団」の社長・平山一正。会社の基盤をさらに強固なものとするため、やはりIT企業である「スパイラル」の買収をセントラル証券に持ちかける。続編のキーパーソンの一人になりそうだ。

 立命大時代から芝居に打ち込み始めた土田も大物演劇人。代表を務める「MONO」の全作品の作・演出を手掛け、文化庁芸術祭優秀賞など数々の賞を得ている。

 ドラマへの出演歴はNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013年度後期)などほんの僅か。半面、熱烈なファンを生んだ観月ありさ(43)主演の「斉藤さん」(2008)など数々の人気ドラマの脚本を提供している。

■戸次重幸(46) パソコンと周辺機器の販売を行う「フォックス」社長の郷田行成に扮する。郷田は元大手コンピュータ会社社員で、独立して会社を興し、急成長させた。その経営手腕はIT業界内外で注目されている。

 戸次は人気の演劇ユニット「TEAM NACS」の一員。大泉洋(47)、安田顕(46)らの盟友だ。脚本も書き、一人芝居も行う。

 以前は本名の佐藤重幸で活動していたが、2006年に母親が亡くなった後、感謝の気持ちを込めて母親の旧姓を芸名にした。情の深さは役柄にも表れることが多いが、さて今回は・・・。

■山崎銀之丞(58) 「太陽証券」営業部長・広重多加夫役。電脳雑伎集団に狙われたスパイラルに対し、アドバイザーとして名乗りを上げる。

 故・つかこうへいさんの愛弟子の一人で、さまざまな役柄で舞台「熱海殺人事件」に出演した。自ら「劇団空想天馬」も主宰していた。「3年B組金八先生」第5シリーズ(TBS、1999)から理科教師・遠藤達也に扮するなど数々のドラマのバイプレーヤーとして活躍している。

■古田新太(54) 東京中央銀行副頭取・三笠洋一郎役。中野渡謙頭取(北大路欣也、77)をライバル視している。

 古田が人気劇団「劇団☆新感線」の看板俳優なのはご存じの通り。極悪人もエリートも難なく演じる正真正銘の演技巧者だ。

 ライバル関係になるベテランの名優・北大路とは23歳も違う。ところが、不思議なことに貫禄も迫力も負けていない。これも演劇人として稽古を積んだからなのか・・・。

 ほかに師弟コンビも登場する。「劇団東京乾電池」座長の柄本明(71)と座員の江口のりこ(40)である。

 柄本は最近、長男の佑(33)と次男の時生(30)の父親としてクローズアップされがちだが、この人も抜群にうまい。コメディもシリアスも完璧に出来てしまう。故・渥美清さんと故・志村けんさんにも認められていた。演劇界のカリスマの一人だ。

 東京乾電池で鍛えられた江口はドラマに欠かせない人になりつつある。「これは経費で落ちません!」(NHK、2019)では空気の読めないキャリアウーマンに扮し、観る側を爆笑させた。中学卒業後、住み込みで新聞配達をやりながら、稽古に打ち込んだ根っからの演劇人だ。

 演劇人以外もうまい人たちがそろった。ハイレベルの演技が楽しめそうだ。

高堀冬彦(ライター、エディター)
1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長。2019年4月退社。独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月19日掲載

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