「あざとくて何が悪いの?」を地で行く小池百合子 女子アナ礼賛主義が生んだ強者の論理

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 強い者ではなく、変化し続ける者が生き残る。そうであるならば、やはり小池百合子は今回の都知事選も再選するのではないか。「権力と寝る女」「政界渡り鳥」と呼ばれた変わり身の早さは、進化論上は正しい。

 目立つパフォーマンスが大好き。目立つ地位が大好き。断髪式にコスプレや始球式。YouTuberとのコラボに余念がないが、政策に信念はない。政治家ではなく政治屋。そう批判されてきた小池。その並々ならぬ上昇志向に満ちた人生を辿った「女帝・小池百合子」は、5月の発売から早くも話題になっている。それだけ彼女に言い知れぬ違和感を覚えていた人が多かったのだろう。女を武器に権力者に近づき、利用したらさっさと捨てる。自分をブランド化するための、嘘とパフォーマンスに満ちた半生。メディアがいないところでは態度を豹変させ、特に女性に対しては冷淡。次から次へと明かされる関係者の証言に、彼女の怖さが浮かび上がってくるような仕立てであった。

 けれども小池はこう切って捨てるだろうとも思った。「あざとくて何が悪いの?」と。まるで田中みな実のように。なぜなら彼女の成功は、周囲の美人礼賛主義、もっと言えば女子アナ礼賛主義的な目線があってこそである。その好奇心に満ちたスケベな視線を、自己アピールのために徹底的に利用した、もっとスケベ根性の強い人間が小池であり、田中なのである。あなたも大概スケベだけれど、私もおんなじだからいいじゃない。強い生き物より、変化し続けられる生き物が頂点に立つのよ。そう言われてしまえば、返す言葉がないなと思うのである。

「添え物」から「バケモノ」へ 神格化される女子アナイメージを使い倒す生存戦略

 小池は正確にはキャスター出身だが、女子アナという言葉には単なる美人を超えた、2つの相反するイメージがある。可愛いけどしょせん「添え物」というイメージと、知的な専門職の女性というイメージだ。小池は有権者に対しては前者のイメージを、政治家やメディアに対しては後者のイメージを使い分けたと言える。あんなにキレイな女性がたった一人で、政界で健気に戦っているなんて。あんなに語学に堪能で知的な女性が、美脚あらわなミニスカートで俺に笑いかけてくれるなんて。女子アナという神格化された職業イメージを、存分に使い切った政治戦略はお見事である。

 考えてみれば最近「M」で怪演女優ぶりが話題の田中みな実も、アナウンサーという肩書きは手放さない。なぜなら、女優よりも女子アナの方が生存戦略の幅があるとわかっているからだろう。女優が脱いでも演技の一環だが、女子アナが脱ぐとなれば別だ。知的な女性がいやらしい姿を見せるギャップは、高い商品価値になるとよく理解しているに違いない。写真集のヒットでそれは実証済みだ。余談だがTBS在籍時代、彼女は上司の安住紳一郎アナウンサーから、「あなた将来、政治家になった方がいいよ」と言われたという。周囲の目線を最大限踏み台にして、自己アピールに活かす能力を見抜かれたのだろう。

 小池の本の帯には、「救世主か?“怪物”か?」と書かれている。本の内容からいえば、明らかに“怪物”と言わんばかりだ。確かに、小池にしろ田中にしろ、自己顕示欲モンスターという印象は否めない。しかし元から得体の知れない生き物だったわけではなく、周囲の視線が「バケモノ」に育ててしまった側面もあるのではないかと改めて感じる。

 小池は初の女性総理候補とよく持ち上げられる。本人もまんざらでもないようだ。けれども、総理になって何を成し遂げたいかは語られない。その何を狙っているのかわからないところにも、底知れない気味の悪さが加わるのだろう。が、何を目指しているのか、本当は彼女自身もよくわかってないのではないだろうか。一生チヤホヤされていたい。そういう漠然とした欲望しか見えない。それはバケモノじみた濃度でありながら、一方でとても人間らしい欲でもある。

 オリンピックという最高の晴れ舞台も延期になった今、小池は何を目指すのか。ここ最近の会見を見ている限り、コロナ対策よりも「新語・流行語大賞」狙いなのかと勘ぐってしまう。「3密」「東京大改革2.0」「雪中送炭」「ウィズコロナ宣言」。大喜利芸人ばりに繰り出されるフリップの数々。対策そのものより、うまいこと言ったでしょ、というコピーライターの資質をアピールしたい匂い。残念ながら彼女ご自慢の「クールビズ」はトップ10止まりだったが、今年は「3密」「ステイホーム」あたりはいい線行く気がする。授賞式に向けた手作りマスクの柄くらいは考えているのではあるまいか。まあ、田中のドラマ「M」「許さなーい」あたりも入るかもしれないし、小池と田中の一騎討ちは面白そうだ。私はまたもそんな下世話な想像をしてしまう。

 女子アナ礼賛主義が生み出した、進化し続け頂点を目指す元・女子アナたち。「添え物」から「バケモノ」へ、そして一体「何者」になっていくのだろうか。

冨士海ネコ

2020年7月3日掲載

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