「新型出生前診断」の拡大で“ビジネス化”加速の懸念 儲けに走るクリニックの手口

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「拡大」してほしい開業医たち

 先に述べた通り、日産婦が拡大を目指す理由には認可外施設をけん制する狙いがあるが、

「むしろ日産婦に所属する産婦人科の開業医たちからの強い要望があり、学会として拡大に舵を切らざるを得ない部分が大きいのでしょうね」

 というのは、神宮外苑ミネルバクリニックの仲田洋美院長だ。これには、少し解説が必要だろう。

 現在、認可外施設としてNIPTを実施するクリニックは、専門の資格を有しているわけではない。美容外科や皮膚科などの医療機関がNIPTを実施しているケースが多々あるのだ。検査そのもののプロセスは「採血をして、サンプルを検査会社に送るだけ」(仲田院長)だから、NIPTの実施に特別な技術は必要ないという。これは認可施設の大学病院だろうと同じで、検査会社による適切な精度管理のもと検査は行われる。

 一方、産婦人科医として開業するには、日産婦が設ける専門医資格を持っていなければ難しい。もし、産婦人科のクリニックが認可外としてNIPTを実施すれば、これを良しとしない日産婦から処分を受けてしまう可能性があるのだ。

「場合によっては、『専門医』資格のはく奪もありえるでしょう。だから現状、産婦人科の開業医たちは、NIPTを実施できないのです。でも認可の範囲を“拡大”し、自分たちを認可範囲に入れてもらえれば、晴れてNIPTを実施できる。だから日産婦所属の開業医たちは、認可の範囲を拡大してほしいというわけです」(仲田院長)

 2016年のデータでは、エコー検査や羊水検査、NIPTをふくむ「出生前診断」を受けた妊婦は、1年間で約7万人だった。医療機関によって異なるが、NIPTの検査費用は15~30万円と決して安くはない。NIPTには、ビジネスチャンスが眠っているのだ。

 かくいう仲田院長のミネルバクリニックも、認可外としてNIPTを実施する医療機関のひとつ。自身のSNSでは「がんと遺伝子の専門医」を掲げ、日本人類遺伝学会に所属している。

 2017年9月からNIPTを実施し、多くの妊婦を診てきた仲田院長は、拡大には基本的に反対の立場をとる。拡大に向けたプロセスが不明瞭であると同時に、NIPTビジネス化が“加速”してしまうことが理由だ。

「当院にいらっしゃる妊婦さんの中には、いちど他所でNIPTを受け、セカンドオピニオンとしていらっしゃる方もいます。たとえば、体制が不十分な認可外施設に行き、きちんと検査結果の説明を受けられず、不安に駆られ来るわけです。では認可施設であれば万全かというと、そうでもない。認可施設では理解を深める名目で『遺伝カウンセリング』を受けることになっていますが、カウンセラーは医師の資格を持ちません。医師ではない人間の“カウンセリング”を受けて、納得できずに私の元へいらっしゃるのです。NIPTを拡大すれば、ケアが不十分なこうした施設が増加することでしょう」

 このほかにも、妊婦を大部屋に集めて説明を済ませたり、パンフレットを渡し「あとはググって」で終わらせるなど、問題のあるクリニックは少なくないという。

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